昨年2012年は、世界各地で大きな選挙が行われた“選挙イヤー”であった。各国の政情についても垣間見ることになった。そんな時に、国会議事堂などを観察してしまうのは、建築好きのさがである。
建築としての議事堂は、権力や威厳を象徴するかのように重厚なものが多いと感じる。アメリカの議事堂はドームを冠した新古典主義様式であるし、ルイス・カーンの設計で有名なバングラデシュの国会議事堂はコンクリートの要塞のようにも見える。日本の国会議事堂はご存じの通りの石張りである。
R・ロジャースの「ウェールズ国民議会 議事堂」
今回は、06年に竣工した英国・ウェールズの「ウェールズ国民議会 議事堂」を紹介したい。ウェールズは、イギリスを構成する4つの国(Country)の一つで、グレートブリテン島の南西に位置する。首都はカーディフである。スコットランドや北アイルランドが個別の司法制度を持っていたのとは異なり、ウェールズに国民議会の設置が決定されたのは1997年とごく最近のことである。
ここは「開かれた議会」を主眼に置き、ガラスを多用した透明感のある建築でその理念を表現している。一般の人でも、3 つの委員会室と、60人の議員を収容する議場をガラス越しに覗くことができ、まさに「開かれた」議会を体現している。
特徴となっているのはその屋根で、太い樹の幹のようにも見える筒が上方に向かって伸び、そこから広がった枝が風雨から人々を守っているかのように屋根が広がっている。平面にして41.5m×77m。巨大ではあるが、非常に軽やかな印象のこの屋根がガラスの箱の上に浮いている。これは「樹の下に人々が集まり、語り合う」という民主主義の最もプリミティブな形から着想を得て、建築に表現したものだ。
この“樹の幹”の部分は、施設の中心となる議場の天井なのだが、自然光が降り注ぐ空間となっている点がなんとも象徴的である。