ニュース

実は豊かだった団地空間

団地復権(1)

2013/01/10

日経アーキテクチュア

従来は見向きもされなかった不動産に新たな価値を吹き込んできた「東京R不動産」。彼らが今、注目しているのが、地域のコミュニティーや緑がしっかり残っている古い団地だ。こうした団地の住まい手に学ぶことで、リノベーションなどによるストック再生や、新しい集合住宅のヒントを得られるはずだ。団地空間の価値について、住まい手の声を知る東京R不動産のメンバーに寄稿してもらった。


 東京R不動産では、新しい視点で団地を再発見して、住み方も提案していくサイト「団地R不動産」をスタートさせた。約1年前の2011年12月のことだ。

 それ以来、多くの団地を見て回っている。一見無機質に見える、規則的に並べられた住戸。でも扉の向こうには、画一的な暮らしではなく、自分らしい住み方を見つけて古い団地を楽しんでいる人たちの空間がある。特に昭和50年代以前の団地は、ゆったりした敷地に、たっぷり茂る緑が迎えてくれるような、豊かな空間を維持しているところがたくさんあるのも魅力だ。

ふすまを外して大きな部屋に

 東京・渋谷から急行電車で約30分。東急田園都市線の中でも繁華街として連日賑わう青葉台駅から、徒歩15分。横浜市の桜台団地に住む松本さん夫婦は、雄作さん30代、恵さん20代。結婚を機にこの団地に引っ越してきた。今は小さな男の子が一人、家族に加わっている。

 桜台団地は1966年竣工と築年数は古いが、4階建ての低層RC造で、つくりはしっかりしている。南北両側に付いた窓からは風が気持ちよく吹き抜ける。エアコンのない時代に考えられた、室内に自然の風を通すための知恵だ。

写真上:桜台団地(横浜市)の松本さん宅。キッチンと居間を仕切るふすまを取り払い、大きなワンルームのようにした。境目だった敷居上に腰高の棚を置き、ゆるやかに仕切る。写真下:押し入れ空間をデスクに転用(写真:ゆかい)

 部屋の間取りは、公団住宅の基本形と言われる「田の字型」プラン。松本さんたちは、大きな改修をすることもなく、自分たちなりに空間をアレンジして上手に使いこなしている。キッチンと居間を仕切るふすまは取り払い、大きなワンルームのようにした。境目だった敷居上に腰高の棚を置いて緩やかに仕切ると共に、料理のための作業台・配膳台にしている。

 団地は比較的収納が広かったり奥行きが深かったりするので、それを生かして一部転用の工夫もした。リビングの隣りの部屋にある押し入れの中段に化粧板を乗せてデスクにしているのだ。ここがもともと押し入れだったとは、言われなければほとんど気づかない自然な仕上がりだ。

豊かな自然とコミュニティー

 松本さんたちが感じている団地の魅力は、南北に気持ちよく風が抜ける室内空間だけではない。1つは豊かな自然。団地と共に時を経て、敷地の木々が大きく育っている。新築マンションで実現するのは難しい風景だ。

桜台団地。団地と共に年を経て、敷地の樹木は大きく育っている(写真:ゆかい)

 今、恵さんは団地自治会の役員も務めている。3歳になった子どもの幼稚園通いが始まり、自身も仕事に復帰。自治会活動が負担でないとはいえないが、「コミュニティーでの新たな交流につながるし、高齢化の進む中、若い自分たちがおじいちゃん、おばあちゃんばかりに自治会運営を任せきりではいけない」と思うようになった。

2人暮らしにちょうどいい

 かつては日本の典型的な農家の間取りだった「田の字型プラン」。これが団地の間取りの基本構成にも援用され、面積約12坪、2DKの「51C型プラン」となった。よくできたプランだが、夫婦と子ども1人(もしくは2人)が住むには、プライバシーがないことが難点だ。でも、2人暮らしならちょうどよいサイズともいえる。

 東京都調布市の神代団地に住む西湖望さん。親子二世代で47年間、団地の同じ部屋に住み続けている。今はご主人と2人暮しだ。

 西湖さん宅の間取りは2DKの約43m2。かつて家族4人で住んでいたときは、2つある部屋の1室を居間兼両親の寝室、もう1室を姉弟の部屋として使っていた。現在は、ふすまを外してキッチンと居間をひと続きの空間として使っている。

神代団地(調布市)の西湖さん宅。居間とキッチンをつなげて広く使っている。手前の居間は、かつては両親の寝室も兼ねていた(写真:ゆかい)

河川(野川)の両岸に建つ神代団地。これだけの自然環境にありながら、徒歩10分と京王線乗車20分で新宿に着く(写真:ゆかい)

 神代団地の魅力には、自然環境や生活の利便性(徒歩10分と京王線乗車20分で新宿へ)の良さが挙げられるが、西湖さんが一番気に入っているのは、団地内のコミュニティーだ。近所はみんなが顔見知り、気心が知れているので安心感があるという。

 埼玉県蓮田市の白鳥美保子さんは、蓮田駅前住宅に住み始めて30年以上がたつ。3人の子どもは独立し、今は夫婦2人暮らしだ。白鳥さんは今、かつての子ども部屋を改装した趣味の部屋で機織りをするのに夢中だ。2人暮しだからこそ実現した空間だといえる。

蓮田駅前住宅(埼玉県蓮田市)の白鳥さん宅。写真左:1階の掃き出し窓を出れば、専用庭が。ツグミ、ジョウビタキ、ウグイス、メジロ…。庭先には季節ごとに鳥が訪れる。写真右:かつての子ども部屋を改装して趣味の機織りを楽しむ。子どもが独立してスペースに余裕ができた(写真:ゆかい)

 そして、この分譲団地に当選して越してきてすぐにできた友達、三好さん、鈴木さんとは今でも大の仲良し。この3軒でまとめて一緒に団地の部屋のリフォームをするほど親密な関係だ。時間の蓄積がなければつくり上げることのできない人間関係がここにはある。

商店街で高齢者を送迎

 松本さん、西湖さん、白鳥さん、皆がいずれも大切にしているのが、地域での人間関係、コミュニティーだ。実は、今でもコミュニティーがしっかり機能している団地はいくつも残っている。

 その一つが東京都武蔵村山市の村山団地。団地の商店街では、団地のお客さんを送迎する三輪自転車タクシー「まいど~宅配」が敷地内をのんびり走り回っている。

 送迎車は平日に運行し、ドライバーは商店街の商店主3人と外部ボランティア数人が務める。商店街にあるステーションに電話で申し込むと、ドライバーがドア・ツー・ドアでの送迎に出動する仕組みだ。「できれば直接お店に行きたい」というお年寄りに喜ばれているという。

 団地内の診療所やリハビリセンターへの送迎も引き受けている。発案者は、この商店街で衣料品店を営む比留間誠一さん。自治体の助成金を得て始めた事業だが、現在は送迎車のリース期間が終了し、武蔵村山市商工会が買い上げ、商店会がこれまで通り運営している。

 肝心なのは、「自分たちでこれをやるんだ」という人がコミュニティーの中にいることです、と比留間さんは熱く語る。

元気な団地コミュニティーの例。A:村山団地の商店街が運営する送迎自転車タクシー「まいど~宅配」。常連のお年寄りからしばらくの間申し込みがないときには地域包括支援センターに一報を入れるなど、単身高齢者の「見守り」機能も果たす B:商店街にある「まいど~宅配」の発着所。「荷物が重いから帰りだけ乗せて」というのもOKだ C:北砂五丁目団地(東京都江東区)の集会所で月に1回開かれているミニ四駆大会。団地商店街の玩具店が主催し、20年以上も続いている D:横浜若葉台団地(横浜市)の夏祭り。総戸数6300戸、約1万6000人が住むマンモス団地は、盆踊り会場も巨大だ(写真:ゆかい)

 今回は団地が本来持っている魅力の一端を、住まい手の目線から紹介した。自然豊かで、コミュニティーが醸成されている団地の住空間の価値を改めて認識し、さらに生かす方法はもっとあるはずだ。

東京R不動産日経アーキテクチュア