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伊東豊雄氏が生涯で最も衝撃を受けた東光園とは?

2012/12/20

日経アーキテクチュア

 日経アーキテクチュアは建築家・菊竹清訓氏が亡くなって1年となる12月25日号に、「菊竹清訓、偉大なる反面教師」という記事を掲載する。その記事のために取材した菊竹清訓建築設計事務所のOB7人に、「最も心に残る菊竹建築」を聞いたところ、7人中3人が東光園を挙げた。伊東豊雄氏に至っては、「菊竹さんの、ということではなく、世界の建築も含めて、自分の生涯のなかで最もインパクトのあった建築」と語る。東光園とはどんな建築なのか。

東光園。玄関口のある西側からの見上げ(写真:磯 達雄)

 東光園は鳥取県米子市、日本海に面した皆生温泉にある観光ホテル。菊竹清訓建築設計事務所の設計により1964年に完成した。地下1階・地上7階建て、延べ面積3356m2(竣工時)。構造は鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)造で、客室階である5、6階を大梁からつり下げるという大胆な構造形式を採っている。構造設計は早稲田大学の松井源吾構造研究室、設備設計は同大学井上宇市設備研究室、施工は熊谷組が担当した。

東側には階段室とエレベーターが突き出している(写真:磯 達雄)

 では、伊東豊雄氏が東光園を推す理由を聞いてみよう。

多様な要素を鳥居が統合

伊東豊雄(伊東豊雄建築設計事務所代表)

 菊竹さんの、ということではなく、世界の建築も含めて、自分の生涯のなかで最もインパクトのあった建築が東光園だ。

 モダニズムが徹底した時代に、日本の鳥居のような形を直感的に考えた。日本的なモチーフを回顧的なものとしてではなく、近代建築に持ち込んだ。

 東光園には、屋根の造形(シェル)、エレベーターと階段の複雑な取り付き方、上からつられている部屋と下から立ち上がっている部屋……と、いろいろな要素が混在している。それらが強い鳥居というモチーフによって、かろうじて統合されている。

階段室を見上げる。階高の違いがそのまま奥行きの違いに反映されている(写真:磯 達雄)

東側から見た全景。庭園は彫刻家・流政之氏の作(写真:磯 達雄)

7階のレストラン。屋根のシェルが天井に表れている(写真:磯 達雄)

5階の客室。和風建築に不似合いな太い柱梁は室内に表れていない(写真:磯 達雄)

客室の浴室から庭園を見下ろす(写真:磯 達雄)

 大学4年の秋、菊竹事務所で働かせてもらうことが決まった後に、見に行った。工事は最終段階で、遠藤(勝勧)さんが現場を走り回っていた。遠藤さんはとても興奮した様子で、それも印象的だった。上からつっている部屋に案内してもらったら、本当に宙に浮いているみたいだった。

 今でも、もうこんな建築はできないのでは、と思えるくらい力強い建築だ。(談)

同級生の穂積信夫氏はこう分析

 日経アーキテクチュア12月25日号の記事では、事務所OBのほか、協働した専門家や友人、発注者などにも話を聞いた。東光園については多くの人が言及していたが、なかでも「なるほど」と思ったのが、菊竹氏と大学の同級生であった穂積信夫氏(早稲田大学名誉教授)の指摘だ。

 「東光園の鳥居のような柱は、座屈を貫で抑えるという日本的な発想。松井源吾先生との会話の中から生まれた。日本的にしようと思っているわけではないのに、やっているうちに日本的になってしまうのが彼(菊竹氏)らしい。大抵の人は日本的なプロポーションを学ぼうとするが、力の流れまでは考えない」(穂積氏)

ロビー。鳥居のような組み柱が圧倒的な迫力で空間を支配する(写真:磯 達雄)

 筆者(宮沢)も7年ほど前にこの建築を訪ねた。もちろん、鳥居のような巨大柱にも衝撃を受けたが、それ以上に感激したのは、そのデザインの「ごった煮」ぶりである。

「菊竹清訓を観る、語る」も開催

 そのときの印象を描いたのが下のイラストだ。

東光園をリポートしたイラスト。書籍「菊竹清訓巡礼」より(イラスト:宮沢 洋)

 東光園は肉・魚・野菜が溶け合った“高級煮込み”である──と、7年前に筆者は描いた。この表現に、先の伊東氏のコメントと重なるものを感じ、ちょっとうれしくなった。繰り返すと、伊東氏はこう話していた。

 「東光園には、屋根の造形(シェル)、エレベーターと階段の複雑な取り付き方、上からつられている部屋と下から立ち上がっている部屋……と、いろいろな要素が混在している。それらが強い鳥居というモチーフによって、かろうじて統合されている」(伊東氏)

 イラストリポートの詳細は、12月17日に発刊した書籍「菊竹清訓巡礼」に掲載しているので、ぜひ書籍を手にとってごらんいただきたい(詳細はこちら)。

書籍「菊竹清訓巡礼」の表紙

 また、菊竹建築の魅力をより多くの人に知ってもらうために、2013年1月18日に出版記念イベント「菊竹清訓を観る、語る」を開催する(詳細はこちら)。会場は菊竹氏が設計した江戸東京博物館の1階ホール。残念ながら伊東氏は参加できないが、OBの遠藤勝勧氏、仙田満氏、長谷川逸子氏、内藤廣氏の4人が参加予定だ。そちらにも足をお運びいただきたい。

 ちなみに、伊東氏以外のOBが選んだ「私の心に残るこの一作」は、日経アーキテクチュア・プレミアム」で12月25日から順次公開する(こちら)。ここでは、OB以外の関係者(例えば堤清二氏など)が選んだ「この一作」も紹介する予定だ。

宮沢 洋日経アーキテクチュア