東京・日本橋、随所で再開発が進む伝統の街で、ひときわ目を引く建築現場がある。建物のファサードを転写した外部足場シートで、建物の外周全体が囲われているのだ。なぜ、このようなことをしているのか、中でどんな工事をしているのだろうか。
建築主の三菱倉庫と、三菱地所設計との共同設計と施工を担う竹中工務店の担当者に話を聞いた。
この現場は、東京都の歴史的建造物に選定されている「江戸橋倉庫ビル」の保存・建て替え工事だ。1930年築のこの建物が持つ独特のたたずまいを残すために、建物の中央部分をくりぬいて、そこに躯体を新築し、保存する外周部分と一体化。その上に免震層を挟んで高層部を築くと言う。
2012年11月時点で、外周の保存部を残して地上の解体を終え、杭の打設に向けて地中の障害物の撤去などを進めている。
足場シート全体に転写を施した例は、これまで国内にはない。遠くからは元の建物がそのまま建っているように見えるが、よく見れば透けるメッシュ状の足場シートに元の外観を転写しているのが分かる。窓などの位置をぴったりと合わせたり、シートのつなぎ目で絵がずれないようにしたりと、精度の高さに驚く。
「工事中も地域や周辺の方々に、なじみのある景観でありたい」。建築主である三菱倉庫の工務部建設チームの新井一也マネジャーは、元の外観を転写した足場シートを採用した理由をこう説明する。
足場シートで囲う前の解体中は劇的な光景だった。外周部を残して、建物の中央部分がぬけて向こう側まで見通せる。もちろん、この状態はきちんとした構造計画を踏まえており、安全であるのは言うまでもない。ただ、目にした人が視覚的に不安定な印象を抱くかもしれないといったことが議論された。