多数の来場者や関係者が取り囲むなか、一心にスギの造作材を刻む大工たち。この見慣れない光景は、日経ホームビルダーと建築知識ビルダーズ(エクスナレッジ)が共同で企画し、工務店の集まりであるJBN次世代の会などの協力を得て実施した「ニッポン男前大工コンテスト」における技術審査の一幕。

初代・男前大工に選ばれた菅原直裕さん。人気投票と技能審査でまんべんなく票を集めた。確かな腕と自信が醸し出す雰囲気はキャリア22年のたまもの(写真:山本育憲)

 この企画は、東京都新宿区のイベントスペースOZONEを会場に10月25日から11月5日まで行われた、住宅系雑誌8誌が連携する「hope&home」による「DO : SUMU? コレカラの家・暮らし」の関連イベント。全国の工務店から推薦された大工たちが、写真による人気投票と技術審査の総合得点で「男前」を競い合った。技術審査が行われたのは最終日にあたる11月5日。9名の大工(1名欠席)が和室の回り縁に用いる「目違いほぞ留め」の加工に挑み、腕を競い合った。

 現在では、審査課題の仕口のような本格的な和室造作が求められる現場は少数だが、こうした木工的な細かい仕口加工の技術は、造り付け家具などには欠かせない。「男前大工」であれば身に付けておくべき技能といえる。参加者が刻んだ仕口を見ると、素人目にも出来栄えの違いがあるのがはっきり分かる。隙間なく納めるには、適切な寸法の逃げが必要だが、逃げがないとぴたりとはまらず、逃げがありすぎるとはめ合いとして機能しない。きれいに仕上げるには絶妙なバランスが必要だ。

 課題の出来栄えは、工務店関係者などの審査員のほか、「男前大工」たちが相互に評価し合った。その結果、東京都大田区の創建舎の社員大工である池内俊介さんが票を集め、技術点で1位となった。総合評価では、人気投票トップで、技術点でも2位になった、東京都江戸川区の大和工務店推薦の菅原直裕さんが1位となり、見事、「初代・男前大工」の栄冠を獲得した。

 審査員長を務めた、千葉県松戸市の工務店、タケワキ住宅建設の竹脇拓也さんは、「課題を見比べて、10年を超えるキャリアを持つ大工の仕事はしっかりしていると改めて感じた」と語る。池内さんは経験年数12年、菅原さんは22年だ。

 このように経験を積んだ大工技能の確かさは魅力だが、技術習得に時間がかかることは、大工を育成する上ではマイナスに働いている。昨今の見習い大工の多くは従来の徒弟制度的な厳しさになじみにくいため、親方は叱らず、優しい態度で接して技術を教えることになる。そのため覚えが遅くなり、技能習得にさらに時間がかかるようになっている。実際、技術が身に付いて稼げるようになるまで辛抱できず、転職するケースも少なくない。

 こうした現状を踏まえて、「人材育成の面からも、きちんとした大工技能が求められる仕事を日常的につくっていくことの重要性を感じている。それには一般ユーザーの理解も必要なので、こうしたイベントは大変価値がある。大工と一般ユーザーをつなぐユニークなイベントとして、今後も継続していくことを期待したい」と竹脇さんは話す。

「男前大工」たちが留めで納めた仕口の精度をチェックする審査員(写真:山本育憲)