巨大開発が止まらないシンガポール。マリーナ・ベイ・サンズの空中プールはまだ記憶に新しいところだ。その南側に植物園「ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ」が建設中だ。2012年6月末に、その一部で2つの冷房されたガラスドームを含む「ベイ・サウス」が完成した。ガラスドームの植物園としては世界最大規模となる。

マリーナ・ベイの遠景。マリーナ・ベイ・サンズを含め、独特な建築が街の新しい印象を作り出している。手前に見えるドームが世界最大規模となる2つの植物園。総工費は10億シンガポールドル(写真:Darren Soh)
マリーナ・ベイの遠景。マリーナ・ベイ・サンズを含め、独特な建築が街の新しい印象を作り出している。手前に見えるドームが世界最大規模となる2つの植物園。総工費は10億シンガポールドル(写真:Darren Soh)

 ベイ・サウスの敷地面積は54haに及ぶ。波のようにも、恐竜の背骨のようにも見える3次曲面を持つ建築が、“フラワードーム”と“クラウドフォレスト”と名付けられた2つのガラスドームである。ランドスケープ担当のグラント・アソシエイションと意匠担当のウィルキンソン・エアの設計による。この案は、2006年に行われた設計コンペで、70以上の案の中から選ばれた。

 それぞれ1万6000m2の面積を有するドームは無柱空間となっており、そのファサードは3300枚以上のガラスで構成されている。ファサード・エンジニアリングを担当したアラップは、高度な3D解析を行い、経済性や施工性などからジオメトリ(幾何学的な配置・形状)を決定した。具体的には、ガラス形状が複雑になっても、ガラス自体をフラットなものにするのか、曲げガラスとするのか、さらには、ガラスの割りを小さくして同じ形状の反復を増やすのか、大きな割り付けとしてより複雑な接合部とするのか――といった点だ。そういった瞬時の決定が難しい設計上の可変要素を見極めるための判断材料を提供した。

 このタイムリーな分析によって、ガラスのサイズや接合部の角度のバリエーション、長方形には納まらないガラスの割合などの情報を提供することができる。施工者からの正確なフィードバックを得ることが可能となり、より経済性や質の高い建築とするための方策となるのだ。また、情報を早期に提供することによって、維持管理の検討にも役立つ。結果として、3300枚のガラスは42タイプに収まり、サイズの微小な差は接合部で吸収している。

 このような高度の解析は、高性能コンピューターの普及によってより複雑化する建築デザインと、実際にモノを作る現場との“橋渡し役”として、建築設計の中でもますます重要性を帯びてきている。

複雑な形状を長方形のガラスで作る検討を行った。形状のバリエーションやサイズの違いを解析した(写真:Darren Soh)
複雑な形状を長方形のガラスで作る検討を行った。形状のバリエーションやサイズの違いを解析した(写真:Darren Soh)