結婚しなかったガウディが愛した女性

―――ガウディは生涯結婚しなかったんですか?

フェリン しませんでした。でも、一度だけガウディはある女性に惚れ込んだことがあるんです。ガウディが20代後半の頃の話です。お相手は、バルセロナ郊外にあるマタロという町で学校の先生をしていたペピータ・モレウという女性。彼女は自由奔放で非常にアバンギャルドな女性でした。例えば、水着を着る女性がほとんどいなかった当時、水着で海水浴に行ったり…。私は個人的には、彼女はガウディにとって理想的な女性だとは思えません。どちらかといえば、彼女が選挙にでも立候補したら、投票したくなるタイプの女性だと思います。

 彼女は3回結婚しました。ガウディと知り合ったのは、1回目の離婚手続きの最中。離婚できるまでの5年間、ガウディは毎週日曜日に彼女の実家にご飯を食べに行っていたのです。

―――毎週日曜日に、5年間もですか?

フェリン 彼はよそ見するような人ではなかった。一途でした。ガウディは本気で結婚したいと考えていたけれど、一度も「好きです」なんて言えなかった。彼女が離婚するのをずっと我慢強く待っていました。ようやく離婚の手続きが済んで、次の日曜日にすぐプロポーズしたそうです。

―――それでどうなりました?

フェリン 実は彼女、その間にほかの人とも付き合っていたの。ガウディがプロポーズしたときには、ほかの彼からもらった婚約指輪をガウディに見せたというエピソードが残っています。

―――ガウディはペピータさんのどんなところに惹かれたと思いますか?

フェリン 私はガウディとペピータの恋のエピソードが知りたくて7年間、研究しました。彼女の写真も手に入れて、私が書いたガウディの伝記に掲載したんですよ。金髪で背が高くてすっごく綺麗な人。この公園を散歩したら、男性がみんな振り返るくらい素敵な女性です。ちょっと赤毛気味のブロンド、青い目でね。ガウディがぞっこん惚れてしまうのもよく分かります。ずっと待っていたのに振られたガウディのショックは大きかったでしょうねえ。

 こんなエピソードもあります。グエル公園は住宅地になる予定でしたが、3軒しか売れなかったんです。1軒目はグエルさん自身が、2軒目はガウディ、3軒目は弁護士のトリアスという人が購入しました。トリアス宅には現在でもトリアス家の人たちが住んでいます。ペピータさんはトリアス氏と知り合いで、ペピータさんがトリアス宅によく来ていたようです。そのことがガウディは気に入らなかったらしく、「彼女が来る日はここに来ない」と言っていたそうです。

グエル公園で1軒だけ売れた個人住宅(撮影:川口忠信)
グエル公園で1軒だけ売れた個人住宅(撮影:川口忠信)

現在は小学校として使われているグエルの住居(撮影:川口忠信)
現在は小学校として使われているグエルの住居(撮影:川口忠信)

25歳のペピータ・モレウさん(資料:王立ガウディ記念講座)
25歳のペピータ・モレウさん(資料:王立ガウディ記念講座)
50歳の頃のペピータ・モレウさん(資料:王立ガウディ記念講座)
50歳の頃のペピータ・モレウさん(資料:王立ガウディ記念講座)