建物だったら、知識のない分、僕の見方はもっと乱暴なものになる。

 僕らの街のいたるところにある、四角四面の固い直線に終始している建物は、今言ったような「枠」そのものの象徴とも見える。興味がさほどないので「それがたてものというものなんだろう」と放置していられるが、自分の使命が建物をつくることだったら、心穏やかではいられないかもしれない。

 いや、言い過ぎた。それは自分の見方が枠をつくっているのと同じか。四角四面のものの中に枠を飛び越えるものもきっとあるだろう。よく知らないから全部同じように見えているだけで、それが自分の生業ならもっと繊細に一つ一つを見分けるのだろう。その形でなくてはならない意味もあるに違いない。ただその理解が深まるとまた枠が姿を現し、いつしか枠の中にいる自分はそれになかなか気づかない。

 では、ガウディのあの作品群は何なのか。

 あれが「内側からの必然により枠を飛び越えるもの」でなくて何なのだ。

 おそらくそんな思いと直感から、

 僕はガウディという大海に飛び込むことにしたのだった。

 自分の中に地図も設計図もないのに、

 僕はたいてい直感で仕事をやるかどうかを決めてしまう。

 そうして飛び込んでみた大海の広さ深さに、

 何となくいま途方に暮れているのだろう。

 ガウディの内側の必然に、いつかたどりつけるのだろうか。

 それとも答えはもう足もとにあるのだろうか。

 旅が始まった。

ガウディ研究家の田中裕也氏からサグラダ・ファミリアの説明を受ける井上雄彦氏(写真:川口忠信)
ガウディ研究家の田中裕也氏からサグラダ・ファミリアの説明を受ける井上雄彦氏(写真:川口忠信)



井上雄彦(いのうえ・たけひこ)
漫画家
井上雄彦(いのうえ・たけひこ) 1967年1月12日生まれ。鹿児島 県出身。1988年『楓パープル』でデビュー。90年連載開 始の『スラムダンク』は、累計1億部を超える国民的ヒ ットを記録。98年から『バガボンド』、99年から『リアル』を連載し、現在も継続中である。

pepita(ペピータ)

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2011年12月12日発行
DVD(収録時間約75分)付き108ページ
価格 本体2,800円+税
発行 日経BP社
発売 日経BPマーケティング

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