日本建築学会は、1959年に同会が「木造禁止」を提起した際の経緯などを解説する文章を公表した。小学館が発行する「ビッグコミックスピリッツ」で連載中の人気マンガ「美味しんぼ」のなかの、「日本の家屋で国産材の使用率が著しく低い一因は、日本建築学会が59年に木造建築を否定したため」という趣旨の記述に関して、読者から事実を確認する問い合わせが2件、寄せられたためだ。

日本建築学会のホームページに掲載された解説文の一部
日本建築学会のホームページに掲載された解説文の一部

 日本建築学会は、「木造禁止」という言葉がひとり歩きすると、本来の意味や同会の活動に対する誤解を招くことになるとして、7月にホームページ上で解説を掲載。これによると、「木造禁止」の提起に至った経緯やその後の取り組みは次のようなものだった。

 59年9月の伊勢湾台風では、5000人以上が死亡または行方不明となり、約15万棟の住宅が全壊または半壊した。これを受けて同年10月、火災や風水害防止を目的とした「建築防災に関する決議」で「木造禁止」を提起した。60年には中央行政庁に対して災害危険区域の指定などを、地方公共団体に対して建築物の制限などを要望した意見書を提出。さらに、61年には対策について詳しく記述した「伊勢湾台風災害調査報告」を刊行した――。

 日本建築学会は「木造建築全般の禁止を一律に求めたものではなく、危険の著しい地域を防災地域として指定し、この地域における建築制限の一つとして、木造禁止を提起した」と説明する。また、木造建築に関する技術書の発行などを継続的に行ってきたと主張している。

 「木造禁止」について冒頭のように記述した「美味しんぼ」が掲載されたのは、「ビッグコミックスピリッツ」の10年5月3日号だ。この中には「一級建築士の試験では木造について一切扱わないし、大学でも木造建築を教えない」との記述もあった。

 これに対して日本建築学会は次のように指摘した。「08年の一級建築士試験では木造に関する問題が3題あった。また、08年の改正建築士法では、一級建築士の受験資格要件として、大学などで国土交通大臣が指定する科目を修めて卒業していることが必要になった。この指定科目の例として『木構造』が挙げられている。現在では、『美味しんぼ』の記述は事実に合致していない」

 国産材の利用拡大による木材自給率の向上を目的とした「公共建築物木材利用促進法」が10年5月19日に成立するなど、国内では木造建築に対する関心が高まっている。こうした状況下で、読者からの問い合わせを受けたことから、日本建築学会は「我々の取り組みをきちんと説明する必要があると判断した」とする。同会は「解説文を掲載したことについては、作者らに手紙を出して知らせた。返事や訂正などは求めていない」と説明。小学館は「手紙は受け取ったが、特に対応はしていない」とコメントしている。