東京都は2010年4月から、エネルギー消費量の多い都内の事業所を対象とするCO2排出の総量規制を開始した。2014年度までの5年間の平均で基準排出量比6~8%のCO2排出量削減を義務づけている。連載企画「企業不動産の環境対応」の第3回は「行政の視点」について解説する。(ケンプラッツ編集)


 東京都は2010年4月から、エネルギー消費量の多い都内の事業所を対象とするCO2排出の総量規制を開始しました。2014年度までの5年間の平均で基準排出量(02~07年度の連続する任意の3年間の平均排出量)比6~8%のCO2排出量削減を義務づけています。

 省エネなど事業所自らの削減で不足する分は排出枠を購入して補うことができ、逆に余分に削減した分は排出枠として売却できる、というキャップ・アンド・トレード型の排出量取引制度を併せて導入しました。取引に利用できる排出枠(クレジット)は、他の対象事業所による超過削減分のほか、(1)都内中小クレジット(対象外の中小事業所の削減分)、(2)再エネクレジット(グリーン電力証書など再生可能エネルギー)、(3)都外クレジット(都外の大規模事業所の一定の削減分)の3種類が認められています。一方で、義務未達成の事業所には罰則や課徴金を課すという厳しい規制です。

 キャップ・アンド・トレード方式は、行政が設定した排出枠の総量上限(キャップ)の中で個々の事業者に排出枠が割り当てられ、排出削減義務達成の手段として各事業者間での排出枠の取引(トレード)が認められる制度です。その制度設計と運用については、排出総量・排出枠の設定対象や割り当て方法・義務違反に対する措置など多くの論点があります。とはいえ、排出総量を確実に削減できること、削減努力が報いられ義務者間の公平性が図れること、さらには取引を市場メカニズムにゆだねることで行政コストを抑えられることなどから、実効性と透明性の高い政策手段として行政は導入に前向きな姿勢をみせています。

 わが国での導入は東京都が初めてですが、EU加盟国ではすでに2005年からEU域内排出量取引制度(EU-ETS)と呼ばれるキャップ・アンド・トレード型の排出量取引制度を導入しています。対象は発電所、石油精製、製鉄所などエネルギー多消費施設で、段階ごとに結果を検証しながら制度を進化させており、05~07年の第1フェーズでも一定の排出抑制効果が確認されています。

 またEU-ETSに参加している英国では、これとは別にオフィスビルや商業施設などを対象に、炭素削減義務(CRC: Carbon Reduction Commitment)と呼ばれる排出量取引制度の試行を今年4月から開始しました。このほかにも、ニュージーランドやニューヨーク州など米北東部10州で導入済みで、米連邦政府、カナダ、オーストラリア、韓国などでも炭素削減義務導入の検討が進められています。

 これらの国や公的機関が参加する国際炭素行動パートナーシップ(ICAP: International Carbon Action Partnership。東京都はメンバー、日本政府はオブザーバーとして参加)は国際的な炭素取引市場の構築に向けて、政府間の連携やキャップ・アンド・トレード制度の設計・運用に関する経験や知見を共有する活動を展開しています。

 東京都のキャップ・アンド・トレード制度導入の背景には、このような世界の潮流があります。そして8都県市首脳会議(首都圏サミット)では首都圏レベルにおける本格的な排出量取引制度導入についての議論が進められており、埼玉県は11年度から東京都とほぼ同様の制度を導入することを決めています。国においては、温暖化対策税の検討、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度の導入とともに、排出量取引制度の創設を地球温暖化対策の3本柱として掲げています。これを盛り込んだ地球温暖化対策基本法案が10年3月に国会に提出され、衆議院を通過しています。参議院での審議は時間切れで廃案になったものの、政府は再提出の構えを崩していません。

三菱UFJ信託銀行 不動産企画部 細山恵子
三菱UFJ信託銀行 不動産コンサルティング部 川本健治


<「企業不動産の環境対応」連載の予定>   *内容は変更することがあります
(1)取り巻くステークホルダー
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(3)行政の視点
(4)地域社会・消費者の視点
(5)コスト削減
(6)最新技術の活用
(7)テナントとの対話
(8)説明責任
(9)社内体制の構築
(10)価値向上のために