連載の第2回は「投資家・金融機関の視点」。企業活動を主に資金面から支えている投資家や金融機関は、企業の活動拠点となる不動産の環境対応についても、強い関心を持つようになり始めた。企業の中長期的な収益向上に、環境への取り組みが寄与するとの考えがあるからだ。(ケンプラッツ編集)
2006年4月、当時の国連事務総長であったコフィー・アナン氏が金融業界に対し、環境(Environment)、社会性(Social)、ガバナンス(Governance)(以下、ESG)に関する課題を投資の意思決定プロセスに反映させるべきであるという原則を提唱しました。これを責任投資原則といい、署名機関は753に達しています。
投資家や金融機関が、投資の意思決定プロセスや株式保有方針の決定に際してESGに関する視点を持つことが社会的責任であり、顧客に対する責任であるとの考え方に基づいています。法的拘束力のない原則ですが、この考え方は市場に受け入れられつつあります。投資家や金融機関は従来、企業の市場価値を主に業績や財務情報から判断していました。しかし近年は、ブランド力、人材、経営力といった非財務情報を積極的に評価し、真の価値を把握しようとする動きが出てきています。
責任投資原則を重視する投資家グループは、毎年、ESGなどの観点から企業の活動報告を審査し、特に良質な内容の報告を行う企業を「Leaders(リーダー)」として選定しています。2010年、日本企業からは三井物産、ニコン、大阪ガスの3社が選定されました。3社の活動報告を見ると、活動の拠点となる不動産、つまり事業所での取り組みについても詳しく説明しています。
例えば、事業所での省エネルギー対策、CO2排出量や産業廃棄物の削減の取り組み、自然エネルギーの活用など、環境に配慮した策を施しているのが分かります。さらに、企業活動によって生じる大気汚染や水質汚染などのリスクを排除する対策も取っており、近隣ひいては地域社会に配慮していることがうかがえます。また、これらの取り組みを実施するにあたって、全社的な委員会を設置するなどの体制を整備しています。
このように、投資家や金融機関は、企業の経営陣に対して非財務的な課題に取り組むことを要請し、企業の中長期的な収益向上に寄与できるよう働きかけています。もちろん、このような取り組みは始まったばかりであり、投資家や金融機関自身も企業の真の価値を把握するため、企業が発する情報の活用方法や分析・評価する能力を向上させていく必要があるのも事実です。
企業に働きかけることに加え、投資家や金融機関が企業の活動の拠点となる不動産に直接、投資するケースもあります。この場合は、自ら環境や社会に配慮した不動産に投資する主体として取り組んでいます。
例えば、アメリカ最大の公的年金基金であるカルパースは、エネルギー消費20%削減を掲げたエネルギー効率計画を策定したり、イギリスの環境不動産ファンドを運用するクライメート・チェンジ・キャピタル社は、BREEAM(イギリスの建築物環境性能評価制度)のExcellent(5段階の認証ランクの上から2番目)以上、再生可能エネルギーの利用といった不動産投資基準を掲げたりしています。こうした不動産投資は「責任不動産投資」と呼ばれています。
2.私たちは活動的な(株式)所有者になり、(株式の)所有方針と(株式の)所有慣習にESG問題を組み入れます。
3.私たちは、投資対象の主体に対してESGの課題について適切な開示を求めます。
4.私たちは、資産運用業界において本原則が受け入れられ、実行に移されるように働きかけを行います。
5.私たちは、本原則を実行する際の効果を高めるために、協働します。
6.私たちは、本原則の実行に関する活動状況や進捗状況に関して報告します。
(資料:Principles for Responsible Investment 日本語版)
三菱UFJ信託銀行 | 不動産企画部 | 細山恵子 |
三菱UFJ信託銀行 | 不動産コンサルティング部 | 川本健治 |
<「企業不動産の環境対応」連載の予定> *内容は変更することがあります
(1)取り巻くステークホルダー
(2)投資家・金融機関の視点
(3)行政の視点
(4)地域社会・消費者の視点
(5)コスト削減
(6)最新技術の活用
(7)テナントとの対話
(8)説明責任
(9)社内体制の構築
(10)価値向上のために