不動産に対する環境規制が強化されるなか、企業が求められる環境対応について実例を交えて解説する。連載の第1回は「取り巻くステークホルダー」。(ケンプラッツ編集)



 環境省によると、2008年度の日本国内における温室効果ガス総排出量は12億8200万トンと公表されています。この排出量を1%削減するには、東京ドーム約77万個分(※)の森林が必要になる計算です。この温室効果ガス排出量の大部分はエネルギー起源のCO2が占めており、さらに、エネルギー起源のCO2排出量を部門別に見ると、工場を含む産業部門が最も多く4億1900万トン、次いで、事務所を含む業務その他部門が運輸部門と並び、2億3500万トンとなっています。

 これらの数値を見ると、工場などを森林に変え、CO2排出を減らすことが急務となっているかのように感じます。しかし、1990年と比べると、産業部門がマイナス13.2%であるのに対し、業務その他部門はプラス43.0%となっています。鳩山政権が掲げる「2020年までに1990年比で25%削減」という高い目標を達成するためには、企業が活動の拠点としているすべての不動産のCO2排出量を減らしていく必要があるのです。

 従来、不動産には様々なリスクがあると考えられてきました。例えば、価格変動、耐震性、テナントの信用などのリスクが挙げられます。これに加えて、現在は、環境にかかわるリスクも考慮する必要があります。土壌汚染、アスベストの使用、森林破壊などは目新しいリスクではありませんが、CO2排出量やエネルギー使用量の削減、生態系への配慮などは新たに考慮すべき事項といえるでしょう。

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 図のとおり、企業は様々なステークホルダーに囲まれています。地球温暖化が問題視されている今日、これらのステークホルダーは、企業の本業のみならず、企業活動の拠点となる不動産にかかわる環境リスクの管理体制や企業が投資する不動産に対する環境対応についても、評価の対象であると考えるようになってきています。

 例えば、投資家や金融機関は、本業の収益性に加えて、環境に配慮した経営といった観点から資金を提供するケースもあります。また、事務所ビルのテナントや店舗を訪れる消費者が、環境に配慮した建物であるか否かを重視するケースもあります。

 この連載では、不動産に対する環境規制が強化される中、ステークホルダーがどの様な視点で企業を評価し、企業にどの様な環境対応を求めているのかについて実例を交えながら考えていきます。また、不動産の環境対応が企業価値向上につながる好機となる可能性についても考察します。これらの課題は、不動産業を専業とした企業だけでなく、不動産を活動の拠点としているすべての企業に当てはまることだと思います。

(※)2008年度温室効果ガス総排出量12億8200万t × 1% ÷ 単位面積当たりの年間森林吸収量3.57t・CO2/ha(出典「太陽光発電導入ガイドブック」NEDO)÷ 東京ドーム面積4.6755ha


三菱UFJ信託銀行 不動産企画部 細山恵子
三菱UFJ信託銀行 不動産コンサルティング部 川本健治


<「企業不動産の環境対応」連載の予定>   *内容は変更することがあります
(1)取り巻くステークホルダー
(2)投資家・金融機関の視点
(3)行政の視点
(4)地域社会・消費者の視点
(5)コスト削減
(6)最新技術の活用
(7)テナントとの対話
(8)説明責任
(9)社内体制の構築
(10)価値向上のために