LEDの登場は、建築デザインと照明の意味を変革するとさえ言われる。主照明としての位置を確立しつつあるLED光源をテーマに、日経アーキテクチュアとケンプラッツは6月に「LED照明セミナー&展示会」を開催した。基調講演と、照明デザイナーらによるディスカッションの2回に分けて採録する。


「光と、光源・器具のバランスが常に課題」

青木 淳氏。建築家、青木淳建築計画事務所。1956年神奈川県生まれ。80年東京大学工学部建築学科卒業。82年同大学院修士課程修了。83年磯崎新アトリエ勤務。91年青木淳建築計画事務所を設立(写真:吉田明弘)

 基調講演では青木淳建築計画事務所の青木淳氏が、自らの作品を例示しながら照明に対する取り組みの変遷と可能性、課題について持論を展開。既存の光源と同様にLEDにおいても「光と光をつくるもの」のバランスに踏み込んだデザインが待たれると語った。

 一世を風びしたオリベッティ社のタイプライター「バレンタイン」、通称“赤バケツ”が登場したのは1969年。当時の新素材だったプラスチックを使い、柔らかい曲線で立体的な形をつくり上げたものです。

 この作品で一躍有名になったイタリアのデザイナー、エットーレ・ソットサスはこのとき、「新しい素材が生まれるというのは、社会が変わることを意味する」と言っています。つまり彼は、プラスチックでタイプライターをデザインすることによって、来るべき「プラスチックの社会」を形として表そうとしたわけです。僕はまだ独立前でしたが、これを読んで「デザインとはそういうことか」と衝撃を受けました。

 LEDは僕にとって、その意味で面白い素材です。10年ほど前から興味を持ち、建築の照明として取り入れてきました。当時はまだほとんど出回っておらず、わずかに存在しても大変高価な製品でした。それが次第に技術的にも価格的にも使えるものになってきて、現在では光源を考えるときにはLEDが当たり前となっています。

 しかしながら、今はまだ「LEDがどれほどインパクトを与え、社会を変えていくのか」を表現するところまでは至っていないように思います。今日はそれを踏まえて、取り組みの変遷を紹介しましょう。

蛍光灯での均一な光に苦心

 照明をデザインするとき、要素となるのは光とそれをつくるもの、すなわち光源や器具です。この2つは、似ているようで実は相反する関係にある。光そのものを見せたい場合、光源や器具を目立たせずに欲しい光だけを得たいわけです。反対に、光源や器具も一緒に表現したいと思うと、今度は光そのものが見えにくくなってしまう。そのせめぎ合いやバランスに難しさがあります。

 具体例を挙げてみましょう。僕が初めて商業建築を手掛けたのは、1999年のルイ・ヴィトン名古屋(栄店)でした。店舗は夜の表情も重要だろうと、全体をきれいな発光体として見せることをコンペで提案し、採用されたものです。

 外壁をダブルスキンとし、外側のガラスと内側の壁に市松模様(ルイ・ヴィトンのダミエ・パターン)を施し、モアレ現象を起こさせる。これに光を当てることで、互いに干渉し合い、実在しない第3のパターンが現れる構想です。

 まだ光源は蛍光灯でしたから、影のない均一な光を出すのは非常に難しいことでした。その後も2002年にルイ・ヴィトン表参道ビル、04年にはルイ・ヴィトン銀座並木通り店を手掛けましたが、やはり蛍光灯を使い、苦労して仕上げました。

 銀座の店は既存ビルの改装で、僕は夜、外装に回り灯と うろう籠のように光が浮き出てくるアイデアを提案しました。GRC(ガラス繊維強化セメント)パネルに薄い大理石を象ぞ うがん嵌して部分的に光を透けさせる。コンピュータープログラムによって、その光の明るい部分と暗い部分を変化させ、呼吸しているかのように見せるものです。しかし、蛍光灯による調光には限界があるため、思うようには光の強弱が付きませんでした。