日経アーキテクチュア2009年8月24日号の特集「保存・再生の経済学」では、滋賀県豊郷町立豊郷小学校の保存運動のその後を取り上げた。

 保存か建て替えかを巡って町を二分する対立を巻き起こし、前町長のリコールにまで発展した豊郷小学校。その旧校舎の改修が、今年3月に完了した。図書館や子育て支援センターなど町立の複合施設として、多くの人が訪れている。

 豊郷小学校は、米国人建築家ウイリアム・メレル・ヴォーリズ(1880~1964年)が設計し、1937年に竣工した。RC造、地上2階建て(一部3階建て)、両翼120mに及ぶ建物だ。当時は「白亜の殿堂」と称された。

 竣工から70年以上が経過し、改修直前にはかなり傷みが進んでいた。耐震補強と大規模改修の設計を担当したのは、原設計者のヴォーリズ建築事務所をルーツに持つ、一粒社ヴォーリズ建築事務所(大阪市、以下一粒社)だ。

1937年の竣工当時は「白亜の殿堂」と呼ばれた豊郷小学校。70年を経て改修された。建物だけでなく、前庭も含めて竣工当時の図面や写真に基に復元した。造園の原設計者は日本のランドスケープアーキテクトの草分けである戸野琢磨(1891~1985年)だ(写真:車田 保)
1937年の竣工当時は「白亜の殿堂」と呼ばれた豊郷小学校。70年を経て改修された。建物だけでなく、前庭も含めて竣工当時の図面や写真に基に復元した。造園の原設計者は日本のランドスケープアーキテクトの草分けである戸野琢磨(1891~1985年)だ(写真:車田 保)

 調査と設計を担当した一粒社の福永貴之主任は、「町民に愛されて今まで残った建物。その時代の雰囲気を復元しようと心がけた」と話す。福永氏は復元のコンセプトをフロアで分けた。新しく町の施設が入る校舎棟1階は、竣工当時に近い雰囲気に戻す。2階と3階については、手を入れながら使われ続けてきた味わいを生かし、最低限の補修に留める。「何十年もの間に付いた傷や汚れは、新たにつくり出しようがない卒業生たちの貴重な記憶だ」と福永氏は話す。