徳永 太郎氏(日経BPインフラ総合研究所副所長)
徳永 太郎氏(日経BPインフラ総合研究所副所長)

「木造であること」「木材を活用していること」は、不動産の流通市場でどのように評価されているのか。木造建築物の取引事例と不動産価値について、「日経不動産マーケット情報」誌の前編集長で現在、日経BPインフラ総合研究所副所長を務める徳永太郎氏がリポートする。

 不動産投資ファンドや不動産投資信託(REIT)によって木造建築物が売買されるケースは非常に少ない。

 投資用不動産の取引データを収集している「日経不動産マーケット情報」誌の調査によると、過去12年間に収集した約1万8000件の売買のうち、木造、あるいは構造に木造を含む建物はわずか95件、0.5%強にとどまっている。

木造建築物の取引事例
木造の取引事例
日経不動産マーケット情報が提供する不動産取引データベース 「DEAL SEARCH」を用い、木造建築物を抽出し、そこから解体(予定を含む)を確認できた建築物を排した。2015年7月17日時点での結果。(c)日経BP社 クリックするとPDFをダウンロード

 実際の取引事例を見てみると、高額取引としては、2014年に星野リゾート・リート投資法人が京都市にある老舗の高級旅館「星のや 京都」を27億8500万円で取得した事例がある。ただ、後で詳しく説明するが、これはかなり特殊なケースと言える。これ以外は、個人投資家による数億円規模の賃貸住宅の取得が目立っている程度で、ファンドなどによる木造の取引はほとんどないことがおわかりいただけると思う。

 データには、木造を含む混構造の建物の取引も含まれている。実際に木造部分はどこなのか、どのように木材を利用しているかといった詳細はこのデータからはわからない。

 今日は「木材を利用した建物」ではなく、「木造の建物」について、不動産投資市場における価値という観点で報告したいと思う。

リーシングの可能性を追求して木造を選択

 先のデータを収集した「日経不動産マーケット情報」誌は、主に不動産ファンドなどの大型取引を中心に事例を集めており、個人投資家の売買は高額取引を除くとほとんどフォローしていない。しかし、個人投資家にとっては木造建物は有望な投資物件となり得る。木造には、税金や修繕費などの保有コストが低い、規模が小さく購入しやすいといった投資上のメリットもあるからだ。

 一方、不動産ファンドやREITでは、木造建物は投資対象になっていない。投資効率を考えると、ファンドの投資対象は金額が10億円を超えるような規模になる。それだけの金額規模のある木造の事業用不動産は、ほとんど市場に出てこない。

 ただ、最近、REITによる売買で、木造に関係した二つの新しい動きがあったので、その事例を紹介する。