2005年1月からスタートした日経アーキテクチュアの連載「建築巡礼」シリーズがこのほど10周年を迎えた。建築ライターの磯達雄氏と、日経アーキテクチュア記者でイラストを得意とする宮沢洋が古今の名建築を巡り、文章(磯氏担当)とイラスト(宮沢担当)で感想や妄想をつづるコラムだ。今、この原稿を書いているのはイラスト担当の宮沢である。

 途中、数カ月間休んだことはあったものの、ほぼ月イチペースで10年間、よく続いたものだ。今まで回数を数えたことがなかったのだが、この機に連載第1回から遡って数えてみた。すると、2014年9月25日号の「日本銀行本店本館」の回で100回を超えていた。毎回2枚のイラストを描いているので(たまに3枚も)、最低でも200枚。下描きからペン入れ、マーカーで彩色と、1枚当たり平均7時間かかっているので1400時間。眠らずに描き続けたとしても2カ月間! 我ながらよく描いたものだ。

(イラスト:宮沢洋)
(イラスト:宮沢洋)

 しかし、イラストはどちらかといえば根気と忍耐の作業。本当に大変なのは、知識とひらめきが求められる磯氏の方だ。磯氏、いや、よそよそしいのでここからは「イソさん」と呼ぶことにするが、イソさんのぶっ飛んだ原稿こそがこの連載のメーンディッシュである。筆者のイラストは前菜かお冷や程度にすぎない。

 最近は、筆者を喜ばそうとしてか、「イラストだけ欠かさず読んでいます」とおっしゃる方もいるが、そう言われても正直、あまりうれしくはない。なぜなら、おそらく筆者が世界で一番、イソさんの原稿を真剣に読み、毎回、「そうきたか」と心地良い裏切り感を味わっているからである。筆者も本業は「記者」だが、逆立ちしてもこんな原稿は書けない。

 建築巡礼は知っているけれど、イソさんの原稿はたまにしか読んでいない、あるいは、そもそも建築巡礼を読んだことがない──そんな人のために、これまで日経アーキテクチュアに掲載した105本の原稿のなかから、筆者の心に強く刻まれた傑作5本をここに掲載する。イソさんの原稿に集中してもらうために、あえて写真とイラストは少なめにさせていただく。

 初回は記念すべき連載第1回(2005年1月10日号掲載)の「都城市民会館」だ。