日本人建築家の登場

 ただし、初期の洋館は日本人が設計していたわけではなく、多くは外国人が手掛けていました。後に工部大学校(現・東京大学工学部)ができて、建築家が育成されると、日本人の住宅も、日本人の手によって政治家や実業家の家を中心に洋風化されました。

 工部大学校で教鞭をとったジョサイア・コンドルが三菱の岩崎久彌邸(東京、東30選)六華苑(三重、東30選)を、その生徒だった辰野金吾が松本家住宅(福岡、西30選)、同じく片山東熊が赤坂離宮(東京、東30選)などを設計しています。

京都国立博物館(イラスト:宮沢洋)
京都国立博物館(イラスト:宮沢洋)

 公共建築も、新たに誕生した日本人建築家たちによって西洋風で設計されていきました。例えば、京都国立博物館(京都、西30選)を片山東熊、日本銀行本店(東京、東108P)東京駅(東京、東30選)を辰野金吾が担当しました。辰野は、地方でも浜寺公園駅(大阪、西30選)日本銀行小樽支店(北海道、東30選)を設計しています。

東京駅(イラスト:宮沢洋)
東京駅(イラスト:宮沢洋)

 なお、こうした時代にあっても、社寺や住宅では江戸時代以来の伝統的な建築技術も連続して用いられ、洋風化されたのは一部です。明治以降の技術や材料、表現をもって和を展開した近代和風建築も見られます。道後温泉本館(愛媛、西30選)斜陽館(青森、東30選)などがその典型です。

 明治維新後の西洋化と近代化は、古代の仏教伝来や、中世の禅宗伝来などと同じように「外来文化の受容」の時期ととらえることができます。いずれも、日本人の特徴として、外から伝来したものをすぐに自分のものにして洗練させる能力を示しているともいわれます。

 日本的なものを常に基底に据えながら、新しさにも敏感な日本人。芭蕉も『奥の細道』で、「不易を知らざれば基立ちがたく、流行を知らざれば風新たならず」と記しています。

執筆者:伏見唯(ふしみゆい)
1982年東京都生まれ。早稲田大学大学院修士課程修了後、新建築社、早稲田大学大学院博士後期課程を経て、2014年伏見編集室設立。専門は日本建築史。

おもな参考文献(前編の参考文献も含む)
・太田博太郎『日本建築史序説 増補第二版』(1989年、彰国社)
・日本建築年表編集委員会『図説 日本建築年表』(2005年、彰国社)
・網野善彦『東と西の語る日本の歴史』(1998年、講談社)
・新東晃一『南九州に栄えた縄文文化・上野原遺跡』(2006年、新泉社)
・稲垣栄三『神社と霊廟』(1968年、小学館)
・『日本建築史基礎資料集成 一 社殿I』(1998年、中央公論美術出版)
・『日本建築史基礎資料集成 四 仏堂I』(1981年、中央公論美術出版)
・『日本建築史基礎資料集成 五 仏堂II』(2006年、中央公論美術出版)

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 伏見唯氏の「ざっくり日本建築史」、いかがでしたか。

両書籍の表紙(イラスト:宮沢洋)
両書籍の表紙(イラスト:宮沢洋)

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旅行が楽しくなる 日本遺産巡礼 東日本30選

旅行が楽しくなる 日本遺産巡礼 西日本30選

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<訂正>

日光東照宮のイラストの彫刻名を「眠り猫」に修正しました。(2014年12月11日19時20分)