古い建物を訪ね歩くと、背景にある歴史の流れが知りたくなる。とはいえ日本建築の専門書を読むのは骨が折れる。12月8日に発売となった「旅行が楽しくなる 日本遺産巡礼 西日本30選」では、若手建築史家の伏見唯氏に、日本建築約5000年の流れを一般の人向けにざっくりと解説してもらった。発売記念として、これを前後編に分けて紹介する。

両書籍の表紙(イラスト:宮沢洋)
両書籍の表紙(イラスト:宮沢洋)

なお、記事中の「西30選」は「旅行が楽しくなる 日本遺産巡礼 西日本30選」に掲載している施設、「東30選」は、同時発売した「旅行が楽しくなる 日本遺産巡礼 東日本30選」に掲載している施設を示す。(ここまで日経アーキテクチュア)

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 「五月雨の降残してや光堂」「尊さに皆おしあひぬ御遷宮」──。いずれも松尾芭蕉が中尊寺金色堂と伊勢神宮式年遷宮に臨んで詠んだ句です。旅する俳聖は日本中を巡り、各所で数々の名句を残してきましたが、ときには芭蕉の目の前に、今も残る名建築があり、その感性を引き出したに違いありません。旅は、その土地の名建築との出会いでもあります。

 旅するライターの磯達雄氏と、編集者兼イラストレーターの宮沢洋氏が巡る先々にも名建築がありました。そうした旅先の出会いを、改めて時系列で整理するのが本稿の役割です。多少前後する部分もありますが、各時代ごとに本書に掲載された名建築と、その立地に焦点を当てた背景を簡単に記していきます。