「形式」を守る神社建築

 日本最古の建築遺構は法隆寺西院伽藍(奈良、西30選)です。現在に伝わる寺院の形式としては法隆寺が最も古いもののひとつです。けれども神社建築にはもっと古い形式を伝えるものがあります。神社建築は昔の形式や伝統を墨守しようとする性格が強く、時代が下った新しい建物にも古式が残っているのです。

伊勢神宮正殿の屋根(イラスト:宮沢洋)
伊勢神宮正殿の屋根(イラスト:宮沢洋)

 その性格をより強めているのが「式年遷宮」です。神社や時代によって状況は異なりますが、おおよそ元の状態と同じように神社建築を建て替える行事です。なかでも伊勢神宮(三重、東30選)の式年遷宮が有名で、記憶に新しい2013 年の遷宮は62回目とされています。出雲大社(島根、西30選)も2013年に、遷宮を伴う修理が行われました。

 この伊勢神宮の正殿と、出雲大社本殿、そして住吉大社本殿(大阪)は、簡素な切妻造で庇が付かず、最も古い本殿形式だと考えられています。『日本書紀』や『古事記』には、この伊勢や出雲をはじめとした数々の神社の創立の説話が記されています。

 伊勢や出雲に限らず、全国にある古い神社は次第に国家によって統制されていきました。『延喜式』(927年)によると、当時官社に列せられた神社は3861カ所もありました。また、ある地域で最も格の高い神社が「一宮」と称されるようにもなりました。

 本書に掲載されている神社では、厳島神社(広島、西30選)が安芸国の一宮、吉備津神社(岡山、西30選)が備中国の一宮です。厳島神社を今のような海上の大規模な社殿群に整備したのは平清盛であり、今の社殿群は13世紀や16世紀に再建されました。吉備津神社も、今の比翼入母屋(ひよくいりもや)造といわれる特異な形態の本殿は、15世紀に再建されたものです。