2012年ロンドン五輪およびパラリンピックは世界最大規模のテレビ放送が行われ、推定50億人にスポーツ観戦をもたらしたといわれる。それは、高精細度テレビジョン放送(HDTV、日本では「ハイビジョン」と呼ばれることが多い)に対応するスポーツ照明が、完璧に機能しなければならなかったことを意味する。

 近年の放送技術の進歩は目覚ましい。ロンドン五輪では、従来の照明設計ガイドラインに従うだけでは全ての要件を満たせないことが、開催前の実験放送イベント時に判明した。特注の3Dソフトウエアツールを活用した照明システムの最適化や照度測定、輝度マッピングなどによって課題をどのように克服したか、メーンスタジアムやアクアティクス・センター(水泳競技場)を例に紹介する。

2012年ロンドン五輪の会場となったオリンピック・パーク。右手にメーンスタジアム、左手にアクアティクス・センターが見える(写真:ODA)
2012年ロンドン五輪の会場となったオリンピック・パーク。右手にメーンスタジアム、左手にアクアティクス・センターが見える(写真:ODA)

開幕1年前のテストイベントで課題が判明

 オリンピック放送機構(OBS)はロンドン五輪の開幕1年前、各競技施設で催されたテストイベントの一環として多くのテレビ実験放送を行った。

 その結果、OBSの照明基準を満たすのはアクアティクス・センターだけであることが判明した。それ以外の全ての施設は、光のちらつきやカメラへのグレア、乏しい演色性、影やコントラストのある不均一な光、観客席の過度な照明といった課題が見つかり、HDTV放送の条件を満たさないことが分かった。

 一般的にスポーツ照明といえば、競技者に対する光と競技を観戦する観客への配慮が同時に求められる。テレビ中継する場合は、カメラに適した照明基準がそれに加わる。高精細かつ超スローモーションの撮影が可能なカメラ、次世代の3Dテレビといった放送技術の進歩は、適切な放送品質をサポートするための照明デザインの質の向上を必要としている。

 テストイベントで明らかになった課題をもとに、各施設の照明の最適化が図られることになった。HDTV放送の基準に準拠したうえで、OBSの承認を得なければならない。アラップはODA(Olympic Delivery Authority)から放送照明オーバーレイ(BLO)顧問に任命され、全施設の照明審査と課題解決のために必要なガイダンスを提供することになった。