巨大ドームを可能にした構造

 ナショナル・スタジアムの屋根の高さは、競技場面から約85mである。ドームの骨組みはトラスの巨大なアーチで構成されている。

 サッカーのフィールドの短辺と平行して架けられた梁(Runway Truss)は、可動式屋根を開閉する際のガイドレールの役割も果たす。長辺方向の中央には「横断トラス(Transverse Truss)」と名付けられた長い2本の梁が架けられている。この2本の横断トラスの間が、屋根の開閉する範囲である。

スタジアムの耐用年数を50年と設定すると、屋根の開閉は1万回以上に達することになる。繰り返しの開閉に対して金属疲労による破壊が起こらないように、部材の大きさやディテールを決めた(資料:Arup)
スタジアムの耐用年数を50年と設定すると、屋根の開閉は1万回以上に達することになる。繰り返しの開閉に対して金属疲労による破壊が起こらないように、部材の大きさやディテールを決めた(資料:Arup)

写真の上から中央奥に向かって延びるトラス梁が、屋根を開閉する際のガイドレールとなる(写真:Darren Soh)
写真の上から中央奥に向かって延びるトラス梁が、屋根を開閉する際のガイドレールとなる(写真:Darren Soh)

 アーチが外側に広がろうとする力(スラスト)を処理するために、「リング・ビーム」と呼ばれる幅6m、高さ1.5mの断面をしたリング状の構造体がドームの外周を囲む。リング・ビームはポストテンション構造を採用した。直径15.2mmの鋼製ロープを17本より合わせて引っ張り力を与えた緊張材が14組、リング・ビームの断面内を通っている。

 シンガポールに地震はなくても、風は吹く。さまざまな状態で風荷重を分析した結果、屋根が4分の1ほど閉まった状態が風の影響を最も強く受けることが判明。構造部材のサイズを決める重要な要素となった。

屋根の可動部の仕上げは複層のETFE(可塑性フッ素樹脂)クッションで、長さ220m、幅82m、面積は約2万m2。一方、屋根の主要部はアルミ仕上げとなっている(資料:Arup)
屋根の可動部の仕上げは複層のETFE(可塑性フッ素樹脂)クッションで、長さ220m、幅82m、面積は約2万m2。一方、屋根の主要部はアルミ仕上げとなっている(資料:Arup)