3万の観客席がせり出す

 スポーツ・ハブの中心となるナショナル・スタジアムは、サッカーとラグビー、クリケット、陸上競技のいずれの大会も開催できるように計画された世界で唯一の施設である。

 ここに、5万5000席を確保するのは難題であった。

 例えば、トラックを使う陸上競技に合わせて観客席を配置すると、サッカーの試合時にはフィールドの周りに無駄なスペースができてしまう。観客席の勾配は急にした方が観戦しやすい半面、移動や避難時の安全性には悪影響を及ぼす。かといって勾配を緩くすれば、建築面積が大きくなり、建設費が膨らむ恐れがあった。

 そこで、設計チームは可動式の観客席を備えた各地の競技場を分析。5万5000席のうち半数以上を占める下層の3万席を可動式とし、サッカーの試合時は陸上競技よりもフィールド側に12.5mせり出す設計へと収束させた。

陸上競技の大会を催す際の観客席の配置。パラメーターを使った3次元モデリングによって、最適な形状を探った(資料:Arup)
クリケットの試合時(資料:Arup)
サッカーの試合時(資料:Arup)
左から順に陸上競技、クリケット、サッカーの各大会を催す際の観客席の配置。パラメーターを使った3次元モデリングによって、最適な形状を探った(資料:Arup)

観客席の施工時の様子(写真:Darren Soh)
観客席の施工時の様子(写真:Darren Soh)