史上初となる直径300m超のドーム

 ナショナル・スタジアムの設計においては、他にも相反する与条件があった。

 シンガポールの強い日差しや突然のスコールを防ぐためには、覆いが必要となる。一方、公式なラグビー競技場として要求される天然芝を育成するためには、グラウンドに直射日光を当てなければならなかった。

 そこで、設計チームは可動式屋根の採用を前提に、さまざまな案を検討。スタジアムをドーム構造にすると、最も経済的になるという結論を導き出した。1m2当たりの鉄骨量は110kgに抑えられる。

ドームの屋根は、超高層ビルが建ち並ぶシンガポールの中心部に向かって開く。屋根からのぞく外の景色は、イベント時において素晴らしい背景となる(写真:Arup)
ドームの屋根は、超高層ビルが建ち並ぶシンガポールの中心部に向かって開く。屋根からのぞく外の景色は、イベント時において素晴らしい背景となる(写真:Arup)

 ドーム建築の歴史は古い。直径が約43mのドームを載せた現存するローマのパンテオンは、西暦128年に完成したものだ。しかし、直径が100mを超えるような巨大ドームがつくられるようになったのは1950年代以降である。

 ナショナル・スタジアムは、ドーム建築の歴史において貴重な功績を残した。直径310m。史上初めて300mを超えた。

ナショナル・スタジアム(左)と、隣接するシンガポール屋内スタジアムの山形の建物は、互いに引き立て合う。「印象的なスカイラインになるに違いない」と設計チームが確信したことも、ナショナル・スタジアムにドーム構造を採用した理由の1つ(写真:Arup)
ナショナル・スタジアム(左)と、隣接するシンガポール屋内スタジアムの山形の建物は、互いに引き立て合う。「印象的なスカイラインになるに違いない」と設計チームが確信したことも、ナショナル・スタジアムにドーム構造を採用した理由の1つ(写真:Arup)