漫画家・井上雄彦がモノづくりの原点を探るシリーズ書籍の第3弾『再訪 井上雄彦 pepita3』が、ガウディの誕生日、6月25日に発行される。7月12日には、「特別展 ガウディ×井上雄彦 - シンクロする創造の源泉 - 」が森アーツセンターギャラリー(東京・六本木)で始まる。「ガウディの建築が、多くの日本人を、世界の人々をこんなにも魅了し続けるのはなぜか」――。同展の公式ナビゲーターをつとめる建築家の光嶋裕介氏が、ガウディ研究の第一人者で、同窓早稲田の大先輩・入江正之早稲田大学教授に、クリエイターとしていま再び、ガウディに学ぶべきこと聞く。
光嶋 2年前に、「凱風館」という建築を設計したんです。思想家・内田樹さんの合気道の道場とご自宅で、1階に道場があって、2階に内田さんの書斎がある。つまり合気道をする身体と、頭を使って執筆する関係性がそこにはあって、井上雄彦さんも、自分のアトリエの下にバスケットコートを持っているんですよ。
入江 ご自身もバスケをやるんですね。
光嶋 それを僕はNHKの番組で見て、井上さんが、描くときのインスピレーションをバスケで得ているっていうのは、「凱風館」のける内田先生と似てるんじゃないかと思ったんです。僕は井上さんの漫画が好きだから、「ぜひお会いしたい。凱風館にいらしてください」と手紙を書いたら、来てくださったんです。それがちょうど2年前。内田先生と井上さんと僕とで、鼎談をさせていただいたんですよ。井上さんとはそれ以来のご縁です。
今回、こういう仕事の機会があって、僕はガウディと井上雄彦との架け橋役、とでもいいますか。これまでもガウディはたくさん語られているし、井上さんは生きてる人だから、実際に記者会見したり語ったりすればいいけれど、描くことに専念していただくために、僕が「公式ナビゲーター」という役をいただいたわけです。
入江 井上さんは、絵がほんとにうまいよね。
光嶋 この話を受けたときに、もうこれは入江先生にお会いしなければと思いました。僕も設計の仕事とは違う形で発信してくことが、どういう形で建築に返ってくるかという、チャレンジングなことでもあって。今日はいっぱいガウディの話ができればと思っています。よろしくお願いします。
入江 まず日本でガウディを紹介した系譜、私の大(おお)師匠である今井兼次先生の話からしましょう。20世紀の初頭にヨーロッパでモダニズムが台頭しはじめますが、日本はモダニズムの後進国です。東京帝国大学からはじまる建築の流れのなかで、どうしても様式的な建築の系譜があるわけですよね。ヨーロッパで起こった近代建築を、どうにかしなければならない。コンドル先生の系譜のなかだけでやっていては、新しい近代は出てこないだろう。それに対して、ル・コルビュジエやバウハウス、そこに新しい動きがある自覚はみなさん持っておられたわけですね。近代建築の目撃者になっていく。
今井兼次も、まさしくモダニズムの巨匠たちに会うために欧州に行くんですけど、行く前にいろんな雑誌や資料を調べてるわけですよ。当然そのなかにガウディもいる。偶然発見したのではなく、ガウディの存在を知っていて、関心を寄せて調べてたんですね。そのきっかけになった体験が、「建築とヒューマニティ」という今井先生の本に書いてあります。