建築家の選定から6年足らずで完成

 T3のプロジェクトは、設計チームの選定から6年足らずで竣工に漕ぎ着けた。日本の関西国際空港や中部国際空港でも、設計者の選定から竣工まで約6年だったので、驚くほど早いというわけではないかもしれない。

 しかし、T3の規模は日本のこれらの空港の約1.5~2倍と大きいうえ、設計期間中にリーマン・ショックに襲われてプロジェクトの存続が危ぶまれた。構造の考え方やファサードのディテールにおいて、マスターアーキテクト側と中国側との考え方の違いで相当な議論をしたという話もある。

 こうした困難を乗り越えて、短期間で完成させたプロジェクトの推進力は、注目に値するかもしれない。北京市建築設計研究院などの中国側では、延べ6000人が設計に携わったといわれている。

施工現場では、延べ3万人の労働者が作業に当たった(写真:Arup)
施工現場では、延べ3万人の労働者が作業に当たった(写真:Arup)
施工現場では、延べ3万人の労働者が作業に当たった(写真:Arup)

 延べ6000人の設計関係者と、施工現場に寝泊まりしながら作業に当たった延べ3万人の出稼ぎ労働者。完成後のクールな印象のT3から想像するのは難しいが、そのカオスはいかばかりであっただろう。巨大空港プロジェクトなど当面期待できない日本とは対照的に、そのカオスは我々が体感しがたいエネルギーの塊のように思えてくる。

T3は今後も増築される計画で、2025年に年間3600万人、35年に4500万人の利用が見込まれている(写真:Kalson Ho)
T3は今後も増築される計画で、2025年に年間3600万人、35年に4500万人の利用が見込まれている(写真:Kalson Ho)

菊地雪代(きくち・ゆきよ)
菊地雪代(きくち・ゆきよ)アラップ東京事務所シニア・プロジェクト・マネージャー。東京都立大学大学院工学研究科建築学専攻修了後、設計事務所勤務を経て、2005年アラップ東京事務所に入社。一級建築士、宅地建物取引主任者、PMP、LEED評価員(O+M)。アラップ海外事務所の特殊なスキルを国内へ導入するコンサルティングや、日本企業の海外進出、外資系企業の日本国内プロジェクトを担当。