ホイチョイ・プロダクションズの馬場康夫氏が“飲食店づくり”の担い手を訪ねる連載の第1回、橋本夕紀夫氏の<後編>をお届けする。デザイナーとして独立する前後を聞いた<前編>から一転。馬場氏のお気に入りの店などを題材に、デザインに対する取り組みを具体的に尋ねていく。
馬場 僕は、自分の好きな店を思い返してみると、橋本さんの手掛けた店だったということが多いんですよ。
押上や神泉の「遠藤利三郎商店」(押上・2009、神泉・2013)、その姉妹店として営業していた「向島葡萄亭」(2011)とか、一連の「マルゴ」(1号店2005)とか。特に押上の遠藤利三郎商店は何度かお邪魔していますけれど、あの雰囲気は大好きですね。神泉の店も傑出していると思います。
橋本 ありがとうございます。
馬場 品がいいっていうのかな。実は大衆的なのに。
橋本 それらのワインバーでは、目指したのは居酒屋とかバルなんですよ。とにかく日常的に使うことができる親しみやすい店にしたいなと思って。
馬場 デザインも、すごく面白いですよね。ファサードからとても印象的ですし、いわゆるワインバーというイメージとは全く違う。
橋本 押上は特に店の在り方がユニークなんですよね。住宅街のなかにあるので、近所の人も自転車でひょいっと立ち寄ったりする。ここでも、内装に自然の素材をふんだんに使っています。
馬場 親しみやすいだけじゃなくて、緊張感があるんです。カウンターの大きさや存在感が関係するのかな。
橋本 緊張感を出そうという意図は自分にはなかったんですけれど、そうでしたか(笑)
馬場 同じワインバーでもマルゴとは、だいぶイメージが違いますよね。
橋本 押上の遠藤利三郎商店は小売りもやっていて、お酒を売る店のなかに飲食するスペースがあるようなものですから。
馬場 “角打ち”のような。
橋本 そうですね。それに対してマルゴは、まさにバルのイメージが元にあります。
その頃、日本酒でもバルのような立ち飲みスタイルが流行り始めていたので「そのワイン版をやりたい」というコンセプトでした。オーナーの大竹信子さんは、「ワインをちゃんと見せたい」「ワインカーヴはつくりたい」というようにすごく狙いがはっきりしていて、プロデューサー的な感覚のある方なんです。