豊島美術館のコンクリート打設は、前例のない方法で行われた。3次元曲面の屋根を継ぎ目なく、安価に打設するため、盛り土を型枠にした。施工時には、盛り土型枠を傷つけないように慎重な作業が求められた。

2010年10月にオープンした豊島美術館の、コンクリート打設前の2009年11月に撮った航空写真。盛り土の上にモルタルを塗って(写真手前)、型枠にした(写真:鹿島)
2010年10月にオープンした豊島美術館の、コンクリート打設前の2009年11月に撮った航空写真。盛り土の上にモルタルを塗って(写真手前)、型枠にした(写真:鹿島)

 豊島美術館は、水滴を模したコンクリートシェル構造の建物だ。設計は西沢立衛建築設計事務所。香川県・豊島に、2010年10月17日に開館した。7月19日から10月末まで行われた瀬戸内国際芸術祭の開催地の1つだ。

 約60×40mの無柱空間で、天井に吊るされたリボンが円形の開口部から流れる風に揺れる。撥水剤を塗布したわずかな勾配のある床の上を、水滴が生き物のように動く。内藤礼氏のアート作品と一体化した建築である。

10年10月、オープン直後の豊島美術館を南側から見る。右手に見えるのがアートスペース。左奥に見えるのはカフェなどがあるラウンジ (写真:日経アーキテクチュア)
10年10月、オープン直後の豊島美術館を南側から見る。右手に見えるのがアートスペース。左奥に見えるのはカフェなどがあるラウンジ (写真:日経アーキテクチュア)
アートスペースの内部。天井部から吊り下げられたリボンが、開口部からの風の動きを感じさせる。内藤礼 「母型」2010年 (写真:森川 昇)
アートスペースの内部。天井部から吊り下げられたリボンが、開口部からの風の動きを感じさせる。内藤礼 「母型」2010年 (写真:森川 昇)

 建築もユニークなら、施工方法もまたユニークだ。

 施工上、最も大きな課題は、3次元曲面を描く屋根のコンクリート打設だった。同美術館のプロジェクトコーディネーターを担当していた鹿島中国支店の豊田郁美建築工事部長は、「施工に当たって、合理的な打設の方法を模索した」と振り返る。

 アートとしての作品性が問われるため、ジャンカはもちろん、コンクリート打設時の打ち継ぎによる継ぎ目も見せたくない。ベニヤなどを型枠に使った通常の曲面打設では費用もかかるし、型枠の形状を間違えたときの修正にも時間がかかる。高い精度を確保しながら、安価に曲面をつくれる型枠はないか。考えた末にたどり着いた解が、「盛り土の型枠」だった。

 盛り土型枠の実現性を探るため、豊田氏は5回にわたってモックアップを作成。ようやく「これは使える」と手応えを感じた。それは次のような流れだ。

 まず基礎のコンクリートを打設し、その上に盛り土する。重機でしっかり固め、強度を確保する。表面に薄くモルタルを塗って型枠とする。モルタルは、盛り土が雨に打たれて変形することを防ぐ。打設したコンクリートに土の色が付着することも防止できる。

 続いて、モルタルの型枠の上に鉄筋を組む。屋根のコンクリート打設が完了した後、型枠の土をかき出す。最後にモルタルを剥がして、床のコンクリートを打設する。こうした工程を想定して、「盛り土型枠」の採用を決定した。