多忙な実務の傍らで、2001年から母校の横浜国立大学で教べんを執る西沢立衛氏。伊東豊雄氏や妹島和世氏など多くの人から影響を受けてきたように、学生とのやりとりも刺激になっていると話す。「優しく小さくつくるだけでなく、社会にかかわっていくダイナミックさが必要」と学生にアドバイスを送る。
――西沢さんは母校で教授を務められています。教育に対する興味はどんなきっかけでお持ちになったのですか。
西沢 興味を持ったというよりも、横浜国立大学の恩師であり、当時教授だった山田弘康さんが呼んでくださったことがきっかけです。山田さんと北山恒さん(現・同大学教授)に「大学で教えてみないか」と誘われて始めました。最初は非常勤講師でした。その後、北山さんが実務家教員という特別な立場を大学でつくってくださって、今もやり続けることができています。
――これから就職を控えた学生たちにアドバイスをするとしたら?
西沢 海外の学生と比べると、日本の学生は優しくて誠実で、素晴らしいと思います。それと同じで建築も優しく小さく、日常的につくる。プライベートというか、パーソナルな感じがします。でも僕は、建築にはどこかで社会にかかわっていくダイナミックさが必要だと思うんです。建築が社会にダイナミックにかかわっていくことで、次の社会をみんなでつくっていく、そういう魅力があります。そのダイナミズムが建築の歴史を支えてきたともいえるわけです。
もう一つ学生のみんなには、かけがえのない今を大切に考えて、体験や学習を通して吸収するチャンスが来たときは見逃さないようにしてほしいですね。そうしないと、あっと言う間に40歳になってしまう。
学生と接していてよく感じるのは、「教える」ということはあまり面白いことではない、ということです。でも、「学ぶ」ということはとても創造的なことだと思うんです。学びは赤ちゃんですらやるような、まさに本能的で原始的な活動です。教える側は計画的に2年生ではこれをやって、3年生ではこれをやって、と計画しますが、もちろんその通りには学生は育ちません。学期中は全然伸びなかったのに、夏休み明けにいきなりガーンと成長していたりする。「学ぶ」ということは爆発的で、人間そのものみたいな活動です。これは説明を超えた素晴らしさですね。特に10代、20代の時期はそれが爆発的に起きる。今、自分は爆発しているということを、まず認識してほしいと思います。
――学生は施工の現場を嫌う傾向にありますが、西沢さんにとって現場の魅力は何ですか。
西沢 現場は素晴らしいですね。考えてきたことのすべてがリアルに立ち上がっていく場ですから。最近はコンピューターの設計が中心になってきて、全部がコンピューターの中でできるかのような錯覚があります。でも現実には、ほとんどすべてのことは現場で起きるのです。だから、現場に行くことは重要だと思いますね。
