妹島和世氏とのパートナー事務所「SANAA(サナア)」と自身の事務所「西沢立衛建築設計事務所」。二つの事務所で設計に取り組むが、発想を意識的に転換することはない。西沢氏が建築に寄せる興味とは、「時代の価値観を探り、機能として表現すること」。それが建築の面白さであり、所属で変わるものではないという。
――SANAAと西沢事務所の、それぞれの活動で発想を切り替えていますか。
西沢 特にそれはないですが、議論する相手が変われば、議論の展開とか、思いつくこととか、いろいろなことが変わっていくだろうなと思います。妹島さんと一緒にやるときも個人でやるときも、僕自身のアプローチという意味ではどちらも一緒です。でも、SANAAと西沢事務所とでは、建築の傾向がやはりちょっと違ってきているようには思います。
西沢事務所とSANAAの違いで大きいのは、単純に妹島さんがいるかいないかです。参加するメンバーが違うというのもありますが、それはむしろ事務所の違いというよりはプロジェクトの違いです。やはり妹島さんやSANAAの人たちと議論しながら進んでいく方向と、僕が西沢事務所の面々と議論してつくっていく方向は、違う気がします。
やはり妹島さんのような独創的な人と一緒に仕事をしていると、自分が興味を持っていることがはっきりしてきますし、方向性もむしろ出てくるような気がします。その点からも、妹島さんと一緒にやったり個人でもやったりするスタイルは、単に一人でやっているよりも、いろいろと良いことがあったと思います。
――SANAAとして妹島さんと一緒にやることによって、自分のやりたいことがよりはっきりした、と。
西沢 そうです。建築に限らず、創作やものづくり全般がそうかもしれませんが、やはり人間がつくることからくる面白さがあると思います。例えば、四角というスタディで苦しんでいたら、突然、丸になるとか、丸で苦しんでいたら突然、四角に移行するとか――。人間でなければ成せないそういう跳躍を繰り返すことで、建築はできていくんです。コンピューターの計算過程では出てこない。
もちろん建築には論理的な側面もありますが、同時に、論理で説明できない部分もあります。クライアントと話すことももちろん、人間と人間の対話をきっかけにして起こる突然のひらめきや思考のジャンプ、もしくは苦しいスタディの果てに突如開かれる突破口、そういういろいろな飛躍が不断に起きる。それが人間の創造だと思うんです。
人間の創造は当然、人によって違う。だからこそ、個性的なジャンプも起きます。それが建築をより人間的なもの、多様なものにしている。妹島さんの建築創造の中心にはそういう人間的創造があると、僕はすごく感じます。度合いこそ違うものの、誰でもそうだと思います。自分もそういうやり方をしたいし、それ以外のやり方で建築はつくれない。当たり前のことですが、電卓とパソコンだけでは建築はつくれないわけです。