20代半ばながら話題の2人だ。大西麻貴氏がメディアに初登場したのは「せんだいデザインリーグ2006卒業設計日本一決定戦」での3位入選。「図書×住宅」という題名通り、チューブ状の図書空間と住宅空間が交錯して、重なった場が書斎や広場のスケールに変わる。「彼女の好きな本を起点に内側から考えていくことと、俯瞰的なダイヤグラムがうまく重なった」。大西氏が説明に言いよどむと、百田有希氏がこう添えた。

 2007年、共同設計した「千ヶ滝の別荘」でSDレビュー2007鹿島賞を受けた。最初にあったのは「森の中にたたずむ動物のイメージ」。木々の間で、柔らかくたわんだ四角すいの屋根が、地面から少し持ち上げられている。屋根は「毛皮のような」(大西氏)仕上げ、内部は対照的に白く抽象的な空間にした。地上階から屋根裏へとめくれ上がったような縦穴に、「フェティッシュが一番表れている」と大西氏は解説する。プレゼンテーションには鹿やウサギも登場し、詩的な印象だ。


「千ヶ滝の別荘」。構造は、4枚の鉄板が自重でたわみながら支え合っている状態をイメージした(写真:大西麻貴+百田有希)

 実施設計を08年5月に終了、11月に着工した。「見てみたい空間がある」。そう語る2人の思いを、監修の矢作昌生氏、構造設計の新谷眞人氏、職人的な鉄骨工事で知られる高橋工業などが支援する。みなここ1、2年で出会った。

 突き抜ける契機は何だったのか。大きかったのは竹山聖氏や伊東豊雄氏との出会い。「竹山さんには大学3年のとき『建築は結局、感性でしか語られない』と言われた。その言葉を真に受けて(笑)、好きなことをやればいいんだと楽しくなった。伊東さんは『批判でも何でも言ってこい』という姿勢で、常に新しいものに向かっている。建築家としてあこがれる」(大西氏)。

 伊東氏がディレクターを務めた「福岡市アイランドシティ・フォリー・ワークショップ2006」では、ほか3人の学生とのチームで公園内の遊具を設計、最優秀となった。「平らな人工島の敷地を切り取って持ち上げて、新しい地形をつくろうと考えた。そこにシンプルな正方形の穴をうがって、子どもたちが洞窟(どうくつ)を探検するように遊べる場にした」(百田氏)。08年11月末に竣工予定だ。


2006年夏の学生ワークショップでほかの3人の学生との共同設計で最優秀となった案。伊東豊雄氏や矢作昌生氏らが指導(写真:大西麻貴+百田有希)

 既に2件目の別荘の設計も始めている。今度の敷地は海辺のがけ地。一作目と同様、景観条例で勾配屋根が求められた。傾いた立方体の構成で、条例に応える計画だ。「ただ屋根を架けてしまうのではなく、遺跡を思わせる抽象的で強い形がつくりたかった。石のようなものに光が注いで、開口部を開くと生活がのぞく」(大西氏)。

 「千ヶ滝の別荘」では、SDレビューの「優しい」という審査評が意外だった。「つくるときは凶暴なつもりでいる」と大西氏は、はにかみながら語る。触覚や嗅覚(きゅうかく)を研ぎ澄ませて内面からうがつような空間をつくろうとする2人。単純に社会や時代に対して開くのではない、第2の「内向の世代」の登場なのか。しばらくは、言葉で説明できない感覚を大切にして突き進んでほしい。


大西 麻貴氏(写真左)
1983年愛知県生まれ。2006年京都大学工学部建築学科卒業。08年3月東京大学大学院工学系研究科を修了し、博士課程に進学。同年4月から百田有希氏と「大西麻貴+百田有希」として活動
百田 有希氏(写真右)
1982年兵庫県生まれ。2006年京都大学工学部建築学科卒業。08年3月同大学大学院工学研究科を修了。大西氏とともにSDレビュー2007鹿島賞受賞。大西麻貴+百田有希を共同主宰(写真:柳生 貴也)