1982年に安藤忠雄氏が率いた欧州ツアーになけなしの100万円で参加して出会ったのが、カステルベッキオ美術館だった。「古い空間に今という時間を衝突させることが、ゼロからつくるよりもはるかに魅力的な空間になることにショックを受けた」と、青木茂氏は振り返る。

 「衝突」に必要なのは、既存の建物から「残すべきリソース」を削り出して、骨格を補強しながら新しい空間要素を付加することだ。こうしたリファイン建築は、記憶の継承だけでなく新築に比べてCO2排出量の大幅な削減にもつながる。「建築も車も完成品の環境評価をする半面、つくる過程が軽視されている。長期にわたって環境を考えるなら、これからはリファインを繰り返す姿勢こそ大切だ」(青木氏)。


ロミオとジュリエットの舞台ともなった北イタリアの街、ベローナに建つ美術館。領主のスカラ家が14世紀に建てた城をカルロ・スカルパが8年かけて改築した。スカルパは既存の空間に壁や床といった要素を少しだけ挿入することで空間に微妙な揺らぎをもたらし、過去と現在を対話させている(写真:青木 茂)

青木 茂(あおき しげる)
1948年生まれ。71年に近畿大学九州工学部建築学科を卒業。 数種の職業を経験した後、77年にアオキ建築設計事務所を設立した。90年に 青木茂建築工房に改組。2008年に首都大学東京戦略研究センター教授に就 任。01年に一連のリファイン建築で日本建築学会賞(業績)を受賞。代表作は「八 女市立福島中学校屋内運動場」や「IPSE都立大学」など