「ネットの存在を感じなかった」。膜構造の第一人者であるフライ・オットー氏が手掛けた鳥小屋に入った時のことを、岩村和夫氏はこんなふうに振り返った。10本のマストがザイルネッツを支えるオーガニックな造形の構造物の内部には、木立や営巣場所、小川、芝生などを設けている。「対比されがちな建築と自然環境が、この建物では見事に融合されていて、外部と内部の境界があいまいな空間をつくり出していた」と、岩村氏は解説する。

 「雪が降り積もると幻想的な雰囲気になる」。構造体が生み出したデザイン自体の美しさも、岩村氏の心を射抜いた。


1979年から80年にかけてミュンヘンに建設された。10本のマストに張ったザイルネッツが、4600m2の範囲を覆う(写真:岩村 和夫)

岩村 和夫(いわむら かずお)
1948年生まれ。73年に早稲田大学大学院修士課程を修了。 海外の設計事務所勤務などを経て、80年に岩村アトリエを設立。2003年に「環 境共生住宅の研究開発・実践および普及に関する一連の業績」で日本建築学会賞 (業績)を受賞。代表作は「世田谷区深沢環境共生住宅」など