日本土木工業協会(土工協)が、非公式な協力など旧来のしきたりと決別する「脱・裏設計」を打ち出した2006年4月から丸2年。日経コンストラクションが2007年1月26日号の特集「劣化する設計」で指摘した設計の品質低下は、現在も改善されていません。それどころか、問題が工事にも波及し始めています。日経コンストラクション2008年5月9日号の特集「現場を揺るがす『設計の劣化』」では、そのような設計の問題を追いました。

 日経コンストラクションが土木技術者を対象に実施したアンケート調査によって、裏設計は着実に減りつつあることが確認できました。それ自体は公正で透明性の高い生産システムに向けた動きとして望ましいのですが、問題は建設会社やメーカーの非公式な協力がなくても設計の品質を確保するシステムがいまだに再構築できていないことです。

 「PC(プレストレスト・コンクリート)のシース同士が橋桁内でぶつかり、図面通りに配置できない」というような、裏設計をしていれば発生しなかったような設計ミスが、工事現場に持ち込まれるようになってきました。下請け設計を外注する際も、裏設計時代の建設会社のほうが現在の元請け建設コンサルタント会社よりも「図面をきちんと照査していた」という下請け建設コンサルタント会社の証言もあります。設計の品質低下に対し、憤りを隠さない現場代理人もいました。それでなくとも余裕のない工事現場の手間を増やし、工事の品質に影響を与えかねない状況です。

 建設会社や橋梁メーカーから積極的に中途採用することで、業務執行体制を強化しようとしている建設コンサルタント会社はあります。建設コンサルタンツ協会(建コン協)と土工協との間で、あるいは建コン協と日本橋梁建設協会との間で、設計上の役割分担の議論が進められてはいます。しかし、設計の品質管理システムを再構築するには至っていないようです。

 談合に象徴される旧来のもたれあいの慣行は、土木の生産システムの隅々に根を張っていました。公正で透明性の高い形で設計や工事の品質管理システムを再構築するのは容易ではありませんが、その再構築に時間がかかればかかるほど設計や工事の品質低下が進んでしまうでしょう。将来を担う若者がやりがいを持って仕事ができるようにしていくためにも、早急に解決しなければならない問題です。日経コンストラクションでは今後とも、この問題を追っていきたいと思います。