目の前の仕事をこなすのに追われ、数年先の見通しも立たない。ましてや、道路特定財源の暫定税率の失効で先行きの不透明感がさらに高まった――。激動期の土木技術者が直面している現実はかなりシビアです。ただ、時代の大きな変わり目だからこそ、将来を見据えた取り組みが求められます。

 その点で、土木構造物の長寿命化は重要な課題の一つでしょう。将来の財源確保が困難になる以上、将来も必要になる土木構造物は長持ちさせることを考えなければなりません。予防保全の考え方で適切に維持管理するだけでなく、計画、設計、施工の各段階で検討を加え、長持ちする土木構造物をつくっていくことが求められています。

 日経コンストラクション4月11日号の特集「いまこそ長寿命化」は、そうした問題意識に基づいて過去と現在の取り組み事例を取材し、長寿命化に必要なポイントを探りました。現に長持ちしている歴史的建造物を検証するとともに、長寿命化の最前線の取り組みを紹介しています。

 1900年に完成した布引五本松堰堤(神戸市)が、水道用のダムとして現在も機能を保持している理由には感心させられます。丁寧な施工によって堤体のコンクリートが健全に保たれていることもさることながら、100年前に設けた排砂施設が大きな役割を果たしていました。「排砂施設がなければ、貯水池は完成から25年ほどで、土砂で埋まっただろう」と京都大学大学院の角哲也准教授は述べています。

 この3月に石川県が完成させた自転車道橋は、ライフサイクルコストが安くなることから、あえてイニシャルコストの高いFRP(繊維強化プラスチック)構造を採用しました。国土交通省九州地方整備局発注の佐世保高架橋上部工事の入札のように、長寿命化の技術提案を評価する総合評価落札方式も導入され始めています。

 工費約6000億円のビッグプロジェクト、羽田空港D滑走路建設工事では、設計供用期間を100年と設定し、設計にさまざまな劣化対策を盛り込んでいます。東京都は、1957年に完成した峰谷橋の寿命を200年と設定し、適切な補修によって延命化を図るモデルプロジェクトを始動させました。詳しくは特集記事をお読み下さい。

 必要性の乏しい土木構造物を建設して次世代にツケを回すことなく、後世から「先見の明」と評価されるインフラを整備していきたいものです。