ここまでの変化を誰が予想したでしょうか。これまで土木・建設の仕事を安定させ、旧弊を温存してきた様々な前提が音を立てて崩れ、従来の常識が通用しなくなってきました。容易に変わらないと思われてきた秩序がいとも簡単に崩壊し、激動の時代を迎えています。

 これから土木・建設の仕事はどのように変わっていくのでしょうか。新しい業界の枠組みはどのような形で再構築されていくのでしょうか。技術者はどうすればやりがいや誇りを取り戻せるのでしょうか。

 現在はまだ旧秩序の解体の過程にあり、再構築の道筋がはっきりと見えているわけではありません。しかし、従来の常識を覆すような異変が次々と起きており、来るべき新時代の兆しを認めることはできます。そうした異変の数々を検証しながら、新時代の仕事の枠組みを見通そうとしたのが、日経コンストラクション1月11日号の特集「脱談合後の針路」です。

 特集記事では、脱談合に象徴されるパラダイムの転換が生み出した異変の一例として、特定JVでの受注件数が激減し、JVに対して距離を置く建設会社が出てきたことを紹介しています。飛島建設のように、できるだけ単独での受注を目指し、JVの2番手以下の構成員として入札に参加することを原則として禁止した会社もあります。JVによる共存共栄という形は過去のものになりつつあるのです。

 一方で、土木・建設の業界で脱談合前にはあまり考えられなかったライバル会社同士の合併が現実のものになってきています。脱談合と市場縮小で受注競争が激化している鋼橋業界だけの話ではありません。2008年4月に合併する佐伯建設工業と国土総合建設は、ともに海洋土木工事を得意としています。

 公共工事の入札方式の主流が指名競争から一般競争へと切り替わり、発注者側の配分の仕組みが力を失うなかで、ライバル会社同士が合併する例はもっと増えてくるのではないでしょうか。脱談合前は、1+1が2にならないなどといわれ、ライバル会社同士の合併はメリットが薄いと指摘されていましたが、状況は一変したのです。

 指名競争入札の縮小は、入札不調の頻発の一因ともなっています。入札での指名は、受注者側にとってアメでありムチでした。受注者側は、発注者から指名されなくなるというムチに脅えながら、採算の悪い工事の入札にも付き合うことで次の指名というアメを得ていました。受発注者間の相互依存を担保してきた指名がなくなれば、受注者側が採算の悪い工事の入札に見向きもしなくなるのは当然といえば当然です。福島県では、採算の悪い除雪業務で入札不調が頻発するという問題が顕在化しています。ある除雪業務は入札不調が繰り返されて契約できず、県が直営で実施する事態に至っています。

 発注者と受注者の関係がドライなものに変わり始めているのです。2007年9月には、大分県建設業協会佐伯支部が災害時の応急対策活動に関する協定を破棄する申し入れ書を大分県佐伯市に提出するという“事件”も起こりました。各地で発注者の入札手続ミスが顕在化するようになったのも、予定価格の妥当性がシビアに問われるようになったのも、同じような背景があるといえます。

 特集記事ではそのような異変の数々をつぶさに検証しながら、「談合なき土木界のこれから」をシミュレーションストーリーで描いています。ぜひご一読ください。

 談合時代の仕事の枠組みを一言で表現するとすれば、「もたれあい」です。同業者同士がもたれあい、設計者と施工者がもたれあい、発注者と受注者がもたれあっていました。脱談合後の枠組みの再構築は、もたれあいの脱却から始まると考えます。設計者と施工者が、あるいは発注者と受注者がそれぞれ相互依存の関係を見直し、自立した存在へと脱皮したうえで、新たな協調関係を結ぶことが求められることになると思います。建設コンサルタンツ協会と日本土木工業協会との間で進められている設計者と施工者との役割分担の見直し議論も、そうした流れのなかに位置づけることができます。

 日経コンストラクションは、激動期を生き抜くための良き羅針盤でありたい。単に土木・建設の今後を予測するだけでなく、あるべき姿を土木実務者の方々と一緒に考えていく専門誌でありたいと考えています。土木・建設の将来像を考える記事は今後、より深くより具体的に掘り下げながら継続していくつもりです。そして、土木・建設に携わる実務者の方々が激動の時代を生き抜き、厳しいなかにもやりがいを見いだし、建設産業に活力を生み出すような情報の提供に力を入れていきます。2008年も日経コンストラクションをよろしくお願いいたします。