世間を大きく騒がせた道路関係4公団の民営化から,この10月でちょうど2年がたちました。ひところの騒ぎから一転し,最近では話題になる機会は減ったようですが,民営化によって土木の仕事は大きな影響を受けました。土木事業や土木の実務がどう変わったかを中心に高速道路会社の軌跡を検証したのが,日経コンストラクション10月26日号の特集「民営化で加速するコスト削減」です。

 特集のタイトルに掲げたように,民営化はコスト削減を加速させました。受注者とのあつれきを生みながらも,高速道路会社はコスト削減にまい進しています。民営化を境に,工事入札の平均落札率は大きく下がりました。92%から83%へ下がった中日本高速道路を筆頭に,東日本高速道路,西日本高速道路,首都高速道路も90%台から80%台へと下落しました。民営化の直後に,大手建設会社による談合決別宣言や改正独占禁止法の施行などが相次いだために,平均落札率が下がったのは高速道路会社だけではありませんが,その下落幅は国土交通省の直轄工事を上回っています。

 加えて,東日本,中日本,西日本,首都,阪神の高速道路5社が2006年度に実施した合計1400件あまりの工事入札のうち,低入札は約4分の1を占めました。低入札価格調査の結果,最低価格だった入札参加者が失格になったのは1件だけでした。価格が低いこと自体が問題なのではないと考え,品質管理体制を強化している高速道路会社もあります。下請け会社を苦境に陥らせることなく,受注した元請け会社が適正な利益を上げ,適正な品質の工事を所定の工期内に安全に実施できているかどうかは気になるところです。受注競争の激化に対応した品質管理手法も求められています。ほかの発注機関の低入札案件も含めて,別の機会に低入札案件の実態を検証するような企画を組みたいと考えているところです。

 特集記事では,トヨタ自動車出身の首都高速道路会長へのインタビュー記事も収録しています。トヨタ出身の経営トップが語るコスト感覚は,建設業界の従来の常識とは大きく異なります。ぜひご一読下さい。

 日経コンストラクション10月26日号ではこのほか,「事故に学ぶ●鋼材破断が問う点検のあり方」と題する記事で,今後の点検のあり方を考察しました。6月と8月に相次いで鋼材が破断した木曽川大橋(三重県)と本荘大橋(秋田県)では,2005年に実施した定期点検で近接目視をした際には異状を確認できませんでした。まんべんなく点検する危うさを知りつつ,重点的に点検する危うさを踏まえて,管理の実情に応じて点検のあり方を再考する必要があります。記事中では,点検員の見る目を養う方法や,点検員の能力に左右されない点検方法なども紹介しています。

 「その後の土木」欄では,2007年度に完成する諫早湾干拓事業(長崎県)を取り上げました。長くなるので細々とは述べませんが,このような問題を解決できないようでは土木に未来はないと思います。諫早湾干拓事業の教訓を今後の土木事業に生かすことが求められています。