きっかけは,国土交通省の技術調査課長,前川秀和氏の発言でした。日経コンストラクションの取材に応え,「デフレスパイラル」という言葉を使って,予定価格が下がり続ける構造になっていることに言明したのです(日経コンストラクション6月8日号特集「効き始めた低入札対策」参照)。

 本当にそうなのか? そうだとしても地域や工種,規模によって下がり方はまちまちなのではないか? だとすれば建設会社や建設コンサルタント会社の受注戦略にも大きな影響を与えるのでは? そのような問題意識をもとに,予定価格の実態を明らかにしようと試みたのが日経コンストラクション10月12日号の特集「予定価格下落の真相」です。

 専門家の協力を得て,2002年度と2007年度の予定価格を独自に試算しました。公共の発注機関が実際に発注した工事とコンサルタント業務を対象に,5年前と現在の予定価格を比較しています。

 驚いたのは,工種によっては予定価格(試算値)が上がっていたことです。切削オーバーレイによる路面補修工事が5.6%上昇していたほか,シールドトンネルの工事でも上がっていました。試算した大半の工事は下落していましたが,6%も下がった工事もあれば1%ほどしか下がっていない工事もありました。

 国土交通省の試算も踏まえると,下落率の大きかった工事は,予定価格に占める労務費の割合が大きい傾向にありました。逆に上昇した工事は,材料費の割合が大きいようです。労務費の下落と材料費の上昇の影響の受け方によって予定価格の上下動が大きく左右されていると推察されます。

 その点,実質的に労務費の割合が非常に大きいコンサルタント業務の予定価格(試算値)は,工事以上に下落していました。橋梁の予備設計業務が6.8%ダウンだったほか,地質調査業務に至っては10%を超える大幅下落という結果でした。さらに,昨今の落札率の下落が予定価格の算出に反映されるとなると,コンサルタント業務の予定価格の下落に拍車がかかることは間違いありません。

 予定価格が上がった工事でもその主因が材料費の上昇であるならば,物価変動を勘案した実質的な予定価格は全般に下落していることになります。その一方で,低入札や入札不調が頻発し,予定価格の妥当性が改めて問われています。これらは,本格的な受注競争時代の到来によって引き起こされた現象だと言えるのかもしれません。

 しかし,適正な競争には,健全な競争ができる市場環境の整備が不可欠です。現在の予定価格が,落札価格の上限拘束という不健全な機能を持つことの是非を,改めて議論する必要があります。あるいは,予定価格の必要性そのものを含めて再考する時期に来ているのかもしれません。日経コンストラクションでは今後とも,この問題を追いかけていきたいと思います。

 ここまでは特集記事のことばかりを書いてきましたが,日経コンストラクション10月12日号はほかにも見どころが満載です。ピンチをチャンスに変えて国際航業の新社長に就任した前川統一郎氏のドキュメンタリーあり(「人間ドキュメント」)。総勢800人が従事する6000円億円の巨大工事を,特設の“指令部”が統括する羽田空港拡張工事のルポあり(「ズームアップ」)。建設現場の予定地に何度も足を運び,入念な下調べに基づく技術提案をすることで “逆転落札”した総合評価落札方式の入札結果の紹介あり(「勝つ提案」)。ベトナムで大成建設・鹿島・新日本製鉄JVが建設していた斜張橋の橋桁崩落事故の速報あり(「NEWS時事」)。盛りだくさんの内容ですので,ぜひご一読ください。