発注者の行為だけを問題にするつもりはさらさらありません。問題を発注者のせいにして改善の努力を怠る受注者にも責任があります。でも,土木事業にまつわる様々な問題を考えるときに,発注者が解決に向けた行動を起こさなければ受注者側の努力だけでは限界があると思うことがしばしばあります。やはり,発注者が変わらなければ土木は根本から良くならないのです。日経コンストラクション7月27日号では,このような問題意識に基づいて「発注者の不作為」と題する特集記事を企画しました。

 岩波書店の「広辞苑」によると,不作為とは「行為の一種で,あえて積極的な行動をしないこと」。発注者の不作為が明らかになった至近の例は,水門をめぐる官製談合事件です。発注者はメーカーによる非公式な設計協力の存在を知りながら,長らく問題を放置してきました。事件が明るみになってようやく,国土交通省が発注方式の見直しに重い腰を上げたのを知り,ため息が出ました。改善策を講じることができるのであれば,なぜもっと早く行動しなかったのかと。事件が起きなければ問題解決に乗り出さないのでは,土木の世界はなかなか良くなりません。問題を放置した責任は重いと思います。

 特集記事では非公式な設計協力の問題のほか,本来の趣旨から外れたJV(共同企業体)の利用,定型化した工夫のない設計といった問題を取り上げました。なお,本号の特集は「検証●発注者問題」という連続企画の前編です。次号の後編では,様々な課題を突き付けられている発注者側の技術者の本音に迫り,問題解決の糸口を探ります。

 日経コンストラクション7月27日号ではこのほか,トピックス欄で木曽川大橋のトラスの斜材が破断した原因と対策の内容を詳しく報じました。破断の原因は,コンクリートの地覆に接しているH形鋼が腐食したことにありますが,ほかの橋でも地覆と接している鋼材は点検や補強が急務であることがわかりました。

 「その後の土木」では,廃棄物が大量に投棄された香川県の豊島(てしま)のいまを追いました。2003年に本格的にスタートした廃棄物と土壌汚染の処理事業が半ばを迎え,工程は遅れ気味ながらも自然の再生が着実に進んでいる様子がうかがえます。

 「NEWS焦点」では,7月16日に発生した新潟県中越沖地震による土木被害を速報しました。6月に入社したばかりの若手記者が志願して現地取材を敢行し,先輩記者と協力して数日間で仕上げた4ページの記事です。本誌の印刷の工程上,土木学会の現地調査の結果などは収録できなかったので,続報を次号に掲載する予定です。