公共工事の入札で総合評価落札方式が拡大すれば,技術力の戦いになるーー。そう単純に考えている人がいるとすれば,少し甘いと言うべきかもしれません。

 総合評価の拡大によって技術力を重視する傾向が強まることは確かですが,価格競争がなくなるわけではありません。価格競争力と技術競争力を総合的に評価するのが総合評価ですから,当然といえば当然の話です。日経コンストラクションが土木工事の主要発注者に対して実施した実態調査では,総合評価落札方式の方がそれ以外の方式よりも平均落札率が低い傾向にあることがわかりました。

 価格競争の激化で企業の淘汰は避けられないなどとよく言われますが,実は総合評価の拡大によって価格競争力と技術競争力の両方が問われるシビアな競争が始まっているのです。総合評価の拡大は企業の淘汰を加速する可能性があります。日経コンストラクション5月11日号の特集「総合評価による淘汰が始まる」では,技術提案の求め方や大幅な逆転落札などで話題になっている総合評価の案件をケーススタディーしたほか,主要発注者や主要建設会社の総合評価に対する取り組み状況をまとめ,総合評価の実像を明らかにしようとしています。

 価格競争の激化による技術力の低下を心配する声も耳にしますが,あえて言えば,価格競争力のある技術こそが本物の技術だと考えるべきなのでしょう。以前,日本の建設コストがほかの先進諸国に比べて割高だと指摘されていた時代に,米国の大手建設会社の幹部に対し,「日本の土木技術のレベルをどう評価するか。世界一と言えるのか」などと尋ねたことがあります。返ってきた答えは「コストが高ければ技術力は高くて当然」「お金をかければ技術力を高めるのは容易」といった内容だったと記憶しています。高いコストで実現している技術力の高さは本物ではないと言わんばかりでした。厳しい価格競争が続いていますが,世界に誇れる土木技術であってほしいと切に願います。そのためには不当廉売を抑え,技術力を正当に評価する仕組みが必要になります。

 日経コンストラクション5月11日号ではこのほか,「自治体発注量調査2007」と題して毎年恒例の独自調査の結果を掲載しています。主要自治体の多くで維持管理の予算確保に懸命に取り組んでいる様子が浮き彫りになり,大阪市のように2007年度は新規事業に着手しないと決めた自治体もありました。予算配分や施策などの面で自治体ごとの独自色が強まる傾向にあり,要チェックです。

 4月から始めた新コラム「その後の土木」では,新潟県の県道小千谷長岡線の復旧工事を取り上げました。2004年10月の新潟県中越地震による土砂崩れで生き埋めになった男児が,地震から4日後に奇跡的に救出された被災現場の復旧の記録です。早期復旧と工費の削減を実現するために,崩れた土砂や壊れた道路構造物を被災現場に残したまま復旧するという異例の手法が採用された経緯を追っています。

 「NEWS焦点」では,いまなぜ発注者の入札手続きミスが頻発しているのかを取材しました。発注者では個人も組織も制度の変化や業務の情報化についていけず,ミスを生む傾向があるようです。入札参加者に手続きミスがあれば指名停止などの厳しい措置を取る発注者は少なくありません。発注者側の体制の整備が求められています。