あの世界──とは、はい、米リンデンラボ社による「セカンドライフ(Second Life)」のことです。

 昨年末ぐらいから日本での報道が増えており、気になって仕方がない人あるいはアクセスしている人も、ここをお読みの方の中にいるはず。小社の雑誌でも、日経ビジネス、日経エレクトロニクス、日経パソコン、その他が追っているので、取り上げない訳にはいきません(残念ながら本誌では、まだ。なのでネットで)。と、年明けに思い立ったのですが、そうこうするうち本日(2月8日)も日経新聞に、電通とデジハリが共同で研究を始めるとの報道が…。追い付くのが遅い!日経アーキテクチュア!(とケンプラッツ)。

 カテゴリーとしては、MMORPG(多人数同時参加型オンラインRPG)。要するにゲームなのですが、“ゲーム性”の追求には向かわずに、『リネージュ』などとは異なるポジションを獲得した(ということのようです)。

 仮想の3次元空間に入って人(アバター=化身)と会い、生産活動を行い、通貨を使って経済行為を営む。仮想の3次元マルチユーザー空間の試みというのは長くあったわけですが(日本ならソニーのCyber Passage(Community Place)とか)、“世界”でなく“社会”に近付いた、しかも実空間の経済とリンクする(リアル・マネー・トレードを前提としている)ことで、ようやく花開いたという感じでしょうか。

 身の回りのあれこれを、自分でデザインできる。それらには著作物としての権利が認められる。敷地を取得し、自分のデザインで建物をつくることも、もちろん可。それを「転がす」ことも可。既に「建築」と関係のありそうなビジネスも(3次元CGのコンテンツ制作を含む)ちらほらと。

 実は見た目は、古くからある3次元マルチユーザー空間から、そう進化させた感じにはなっていません。CG表現としてのその落としどころは興味深くはあるのですが、ビジュアルとして「日本人好みでない」との指摘もあって、建築関係の方に参入意欲をわかせるものかは定かでありません。でも、日産が(その社会で通用する)「車」を売り、スターウッド・ホテル&リゾート(シェラトン)が「宿泊サービス」を始め、ロイターが「支局」を開き──などということが実際に起こっていると聞けば、無視しがたい。ですよね?

 ぐんぐん成長中(登録ユーザーは300万人突破)のセカンドライフを長いマクラにしておいて、果てに本誌から引き合いに出すのが「構造計算書偽造」となるのが心苦しいのですが。最新号(2007年2月12日号)では急きょ記者が京都と富山に飛び、アパホテルの「偽造疑惑」を追いました。計算手法の正当性を主張する水落光男・一級建築士に、意匠図、構造図などをもとにした(現段階での)“反論”を聞いています。

 特集は、「子育て安心建築のすすめ」。本誌にも子育て中のスタッフは多く(と言っても家庭での貢献度は「?」)、建築や街が安全で快適なものになってほしい、との願いを持っています。そうした気持ちがストレートに出た特集だと受け取っていただければと思います。

 ちなみに子ども向けの「マーケット」開拓にはどの国も貪欲に取り組んでいるようで、前段の話題に関係させるなら、英国BBCが「子供用セカンドライフ」を今年開設すると発表しています。

 セカンドライフについては、日本語版(日本語環境でのアクセス)が、もうすぐ始まる予定です。構造計算は問われないと思いますが(物理シミュレーションを使えるので、建物の崩壊は起こしえます)、ネットの社会ならではの問題も起こりつつあり、倫理を維持しうるのかどうかに関心も向かっていくでしょう。ご興味のある方も、ユメユメ「安心」を過信せぬようにと付け加えておきます。