中期的な見どころを、まず。この「ニュース」と関係するので、そこから──。

 11月21日午後、石原慎太郎・東京都知事と建築家の安藤忠雄氏を囲む格好で、日本を代表するデベロッパー、ゼネコン、そして設計事務所など都市開発を担う事業者26社のトップが、都庁舎に参集した。

 まず、石原知事、続いて東京のグランドデザインアドバイザーに任命されている安藤氏が発言。石原知事は、フランク・ロイド・ライトが撮ったとされる明治期の東京の写真を引き合いに出し、そこにある情趣、そして日本でのライトが大谷石にたどり着いたエピソードなどに触れる。たびたび口にしてきた「コンクリート」に対する反発を、ここでも隠そうとしない。片や安藤氏は、「ケンゾー・タンゲ」による国立代々木競技場……いち時は存続を危ぶむ声もあったモダニズム建築の写真を、プレゼンの皮切りに見せる。「(既にある)よいものは残して活用する」「(都市整備の)味方につける」と。

 これを受けて各社の経営者が、自社による関連する取り組みや、あるいは都市整備に対する期待・要望などを陳述し始める。聞き入る安藤氏は何度もうなずきながら、忙しくメモを取る。オリンピック招致を機に整備に弾みをつけると共に、バラバラにある取り組みを関連づけ、そして方向づける必要がある。まかれた「種子」がどこにあるか、丹念に探し出そうとしているかのようだ。

 召集の目的を必ずしも詳しくは伝えられていなかったらしい参席者たち。そのうちの一人が事態に納得し、「ベクトル」という言葉を口にする。

 会合中、石原知事は繰り返し、乱れ切った東京の風景に対する呪いの言葉を吐いた。「あなたたちがつくってきたものですよ」との意味もあるのだろう。つくり手の事情を、もちろん安藤氏は心得ている。話は通じる。ある事業者は、一律の規制とせず「(敷地などの)固有性が認められる場面がほしい」とあえて強調した。

 緑、環境、安全・安心。安藤氏は、難しいコンセプトや規制手法をいっさい語っていない。大きなものを大きな力で動かすのではなく、誰にでも行使できる小さな力をネットワークし、対話し、まとめ上げる(Web2.0ならぬ建築家2.0か(注)。いや21世紀なので2.1としておこう)。関西では、植樹活動をそれで成し遂げた。ただ、“東京(の人・コミュニティが相手では)苦戦するかもしれない”とは思っているはずだ。

 点をつなぎ、(ひとつではないだろうが)方向を見定め、受け手にアクションを起こしてもらう。これは、雑誌の編集でも考えていかなければならない作業になりそうだ。

 ──日経アーキテクチュアでは、上記にかかわる動きを報じるため、来年初頭の掲載を目標にいくつか企画を準備しています。ここで議論をおろそかにすると、またもや禍根を残しそうな局面に来ています。誌面では決して登場の多くない「まち」や「都市」にかかわる記事を、なんとか充実させたいともくろんでいます。

 さて最新号(11月27日号)。この号のためには、「環境」をキーワードとした特集を想定し、夏の終わりごろから方向性を探っていました。議論の末やや目先を変えて、環境という側面ではキーポジションに居る設備設計者にスポットを当てています(「設備設計者の飛躍と不安」)。構造計算書偽造事件の余波を語る際に明らかに欠落していた一面を、補うことができたのではないかと考えています。

 その構造計算書偽造事件については、前号に引き続いて取り上げ、今度は確認検査業務(機関)の現況を中心に検証しました(「 偽造事件」後のチェック体制)。

 さらに今年からの試みとして、同梱別冊の形で、「病院・高齢者施設」の最新動向・事例をまとめています(11月21日時点の定期購読者に同梱)。毎年この時期には高齢者施設を特集していましたが、事例の紹介を十分にはできていませんでした。これをいくらか増強しています。本誌とあわせてご覧ください。

(注)定義が明確にあるわけではないWeb2.0の特質について、「日経パソコン」最新号(11月27日号)の特集で、「みんなが応援したくなるもの」こそがそれ。と、“共感できるビジョン”の大切さを説くコメンテーターがいた。心したい。