2011年8月23日、日本建築学会大会(関東)で、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)に関する2つの研究集会が開催された。
午前は「BIMによって建築生産はどのように変わるのか」(主催:同学会材料施工委員会)、そして、午後は「BIMはどこまで来ているか」(主催:同学会情報システム技術委員会)が開催された。両研究集会の会場となった早稲田大学早稲田キャンパス15号館102室には、多くの聴講者が詰めかけた。
まずは、午前に開催された「BIMによって建築生産はどのように変わるのか」をリポートする。施工関係者を中心に、国土交通省や建設会社によるBIM活用事例の報告や、大学関係者を交えたパネルディスカッションが行われた。
施工関係者の注目キーワードは「バーチャル竣工」
ここで注目を集めたキーワードが「バーチャル竣工」だ。バーチャル施工とは、コンピューター上に作った建物のBIMモデルで、意匠、構造、設備の各部材が空間的に干渉しないように調整し、建築可能な状態にすることを指す。竹中工務店の森元一氏が早稲田大学コンピューターセンターの新築工事でのバーチャル施工事例を報告した。
BIMを用いて設計することのメリットの1つに部材同士の干渉を設計段階で解決しておけることがある。森氏は大梁や柱、メーンダクトといった主要部材だけでなく、仮設材や補強材、デッキ部材など細かい部材までを含めてBIMで3次元モデルを構築。着工前に整合性を確認。施工可能であることを確かめた。後で森氏が現場担当者に聞いたところ、「手戻りはほとんどなかった」という回答だったという。
「部材の接合に使うガセットプレートと、つり上げ用のピースがぶつかることは、現場では日常茶飯事。これらの細かい部材は主要部材よりも数が多い」と森氏は説明する。細かい部材まで含めて、干渉を防ぐことの重要性を訴えたのだ。「空調の冷媒配管やダクトなどの設備も、1棟分すべてを3次元モデル化して、どこに何が通っているのかを分かるようにした」(森氏)。
それでもまだ、反省点はあった。「電線は配管やダクトと違って曲げられるので、3次元モデルにはしていなかった。しかし、太い電線は曲げることが難しく、部材と干渉したこともあった。太い管については、配管と同じ扱いにしなければいけないことが分かった」と森氏は振り返った。
東京・京橋で新社屋を建設中の清水建設からは、田淵統氏がBIMによる施工シミュレーションや施工モニタリングについて講演した。
現場では、建物内の狭いスペースで、搬入されたプレキャスト部材に太陽光発電パネルや柱鉄筋などを取り付け3台のタワークレーンと2台の門型移動クレーン(ゴライアスクレーン)を駆使して流れ作業的に設置する工程をBIMでシミュレーションした。
「動きも考慮してBIMモデルで施工手順を検討したところ、仮設の盛り替え時にタワークレーンと仮設材が干渉することが分かった。そこで干渉を防ぐための手順をシミュレーションで決めて実行した」と田淵氏は語る。
東京スカイツリーの建設に携わった大林組の金子智弥氏は「このタワーには鉛直な柱はなく、トラスの接合部では鋼管が様々な角度で貫入し合っている。そこで仮設ピースまで含めて、あらゆる部材が干渉のないように、BIMで施工性を確認した」と語った。
●「BIMによって建築生産はどのように変わるのか」 (氏名は発表者) 1.趣旨説明 木本健二(芝浦工業大学) 2.特別講演 「官庁営繕におけるBIMを用いた設計の試行等について、発注者の立場からBIM適用プロジェクトを通じて見えてきたこと」 吉田 弘(国土交通省九州地方整備局営繕部長) 3.適用報告 「東京スカイツリープロジェクトにおけるデジタルモックアップと工事管理」 金子 智弥(大林組) 「早稲田大学グリーンコンピュータセンター新築工事におる生産設計と専門工事会社との情報連携」 森 元一(竹中工務店) 「清水建設新社屋新築プロジェクトにおける施工シミュレーションと施工モニタリングの連携」 田淵 統(清水建設) 4.討論(パネルディスカッション) 「BIMで生産設計が高度化し、建築生産のプロセスが変わる。日本のゼネコンの役割も変わる」 パネリスト:嘉納 成男(早稲田大学)、報告発表者、小委員会委員 5.まとめ 奥平 与人(奥平アトリエ) 司会 平林 裕治(清水建設) 副司会 志手 一哉(竹中工務店) 記録 香月 泰樹(戸田建設) |